134.発作の裏にある脳の病気:その23 精神科治療薬とてんかん発作(2014年5月号)

かつて以前「抗うつ薬が危ない」(2007年1月号)「抗精神病薬が危ない」(2007年2月号)という項目で精神科治療薬がてんかん発作を誘発することがあると書いた。これと重複するかもしれないが「発作の裏にある脳の病気――特に代謝性疾患――」について検討してくると、「病気の治療薬が副作用として発作を誘発することがある」という問題にぶつかる。アルコールや麻薬などが発作を起こすことがあり、薬、特に脳に作用する精神科治療薬が逆に発作を誘発したとしてもおかしくない。

代謝性疾患は体全身を犯す内科的疾患で、脳もまたそのために影響を受け、てんかん発作を起こすことがある。これらの代表的な疾患として、前回まで低カルシウム血症(第129、2013年12月号)水中毒(低ナトリウム血症、第130、2014年1月号)高アンモニア血症(第131、2014年2月号)脱法ハーブ(第132 2014年3月号)アルコール依存症(第133、2014年4月号)があり、これらについてすでに述べた。薬もこまたこの中に含まれる。

精神科でよく使われる薬は(1)うつ病治療薬としての「抗うつ薬」、(2)不安・緊張を和らげる「抗不安薬」、(3)不眠に対しての「睡眠薬」、(4)統合失調症などに使う沈静効果の強い「抗精神病薬」などがある。これらの薬物は精神科では日常よく使われ、その効果も大きい。

しかしこれらの薬は副作用として「けいれん発作」を起こすことがあるので注意が必要である。特に多剤・多量の服用ではてんかん発作が起こりやすい。

精神科薬を服用してその後に初めての発作が起こる症例はそんなに多くないが無視できない数値でもある。著者の経験では初めててんかん発作を起こした患者の数%はこの種の薬物が服用していた。私は現在1300人ほどの患者さんを診察しており、そのうち新患患者は年に100人程度であるが、その中で精神科治療薬を服用した後に、初めててんかん発作が起きた例は18例であった。精神科治療薬が発作誘発したと強く疑われる例もあるのは事実である。例を述べよう。

20歳台 女 2年ほど前より抑うつ、イライラ感、不安、過呼吸などあり、抗うつ薬、抗不安薬、眠剤など5種類の薬をのんでいた。2年後のある日夜間睡眠中けいれん発作あり、翌日昼再びけいれん発作があった。脳波に異常なし。すぐ抗てんかん薬で治療が始まり、精神科治療薬を1種類に減量し、抗てんかん薬のデパケンを加え、その後発作ない。

20歳台 女 中学生より不登校、対人恐怖、不安、引きこもりで昼夜逆転の生活を送っていた。16歳時に最初の発作があった。当時6種類の抗うつ薬、抗不安薬、眠剤を服用していた。その2年後に1月間隔で2回の発作を繰り返した。

抗てんかん剤(SV400㎎)を服用して発作はその後ないので抗てんかん薬中止した。その後も発作はない。上記2例とも短時間に2回の発作を起こしたことは、服用中の精神科治療薬が何らかの発作誘発因子となったことを示している。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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