131.発作の裏にある脳の病気:その20 代謝性疾患の1つ、高アンモニア血症。抗てんかん薬のバルプロ酸が危ない(2014年2月号)

現在最も広く使われている抗てんかん薬にバルプロ酸がある。商品名はデパケン、セレニカ、バレリンなどである。この薬の副作用として傾眠やふらつきなどの精神神経症状および悪心・嘔吐などの消化器症状が多く、食前に服用すると消化器症状が強く現れやすいので、必ず何か食べてからの服用がよい。これらの副作用は小児では約25%に上るという。バルプロ酸の血中濃度が100μg/mL以上になるとこれらの症状が現れやすい。中でも危険な副作用は肝障害と意識障害を伴う高アンモニア血症である。血中アンモニア値が200μg/dLを超えると脳浮腫、昏睡なども起こりうる。しかしこれは小児の場合に問題となるが、成人では少なく、私は一度も見たことがない。

てんかん以外にも血中のアンモニア高くなる疾患がある。よく知られているのは、急性あるいは慢性肝機能障害で、肝硬変、肝がん、肝炎が進行した際にみられる。その症状は、軽い場合は夜間不眠、周囲への無関心などであるが、さらに進行すると見当識障害、意識障害などが来る。今日が何日か、今自分がどこにいて何をしているのかわからなくなる。同時に羽ばたき振戦という付随運動が現れることがある。腕を伸ばし、手をひろげたときに鳥が羽ばたくような、上下に激しく揺れる不随運動が出る。これはきわめて特徴的な所見であり、一見てんかん発作に似るが黄疸などの肝機能障害があれば間違うことはない。さらに脳波に特徴的な所見が出るので、これが見つかれば診断はほぼ確定する。これは3 相波と呼ばれる所見で、てんかん発作波である鋭羽が規則的律動的に出現する。

症例を示す。

症例1.50歳後半の男性、長い間C-型肝炎に罹患していたが、肝硬変となり、けいれん発作も起こすようになった。ある日朝方から意識がもうろうとなり、会話もまとまらなくなった。脳波にきわめて特徴的な3 相波が出たので診断がほぼ確定した。

症例2.60歳男、肝硬変からさらに肝癌に移行し、血中アンモニアが214㎍/mlと上昇し、意識障害、見当識障害、異常行動が出た。脳波で3 相波がでたので診断が確定した。

症例3.50歳男、風邪症状、発熱に引き続いて急激にB型劇症肝炎となり、数日間でこん睡状態となった。

大量の血液交換により、一命はとりとめた。脳波で特徴的な3 相波がみられた。

症例4.80歳男、C型肝炎から肝硬変、さらに肝癌と進行し、著しい高アンモニア血症がみられた。特徴的な口臭(アンモニアの臭)、羽ばたき振戦があり、脳波で3 相波がみられたので診断が確定された。

抗アンモニア血症の原因はさまざまだが、いずれも肝機能障害と深い関連がある。バルプロ酸の副作用もその一つである。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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