46.抗うつ薬が危ない (2007年1月号)

これまでてんかんの発作の原因について書いてきました。遺伝、先天性脳形成異常、脳血管障害、脳外傷、脳腫瘍、脳炎などが原因となる場合があることを述べました。ここで抗精神病薬が発作を誘発する場合があることについて述べます。

最近うつ病やパニック障害などの精神科の患者さんが増えてきた。そしてそれと同時に精神科関連の薬も色々開発されてきている。これらの薬を飲んでいる人で、まれではあるが、てんかん発作を起こす人が見られる。

抗うつ薬も第2世代から第3世代と新しいのが続々と開発されている。古いのはトフラニール、アナフラニール、トリプタノール、アモキサン、リタリンなどが代表的なもので、新しい薬はパキシル、ルボックス、デプロメール、トレドミンなどが代表的な薬である。

本来ならどれか1種類、多くとも2種類で治療すべきであるが、病状が改善しないせいでしょうか多数の薬剤が同時に併用され、さらに抗不安薬(トランキライザー)や睡眠薬、時には抗精神病薬なども服用している患者を見る。症状が重いとどうしても薬が多くなりがちであるが、一方副作用も厳しいものがある。眠気やめまい、肝障害、貧血などが主な症状だが、てんかん発作もまたその副作用のひとつに加えられている。最近ここ2-3年間で、薬が引き金になっているのではないかと思われるてんかん患者さんが10例近く来院した。

最近経験した症例を述べる。老年期うつ病の男性で複数の医療機関に断続的に通院し、4年間服薬治療した。症状はいったん改善したので服薬を中断したところ、再び抑うつ症状が悪化したので、パロキセチン(パキシル)が投与され、10mgから20mgに増量された。

その後まもなく、意識がぼんやりし、話も出来なくなり、それが数日間続くというエピソードをくりかえすようになった。意識障害時には手足の動きが鈍く、震えもみられた。

脳波を検査したところ、前頭部を中心に全般性のてんかん発作波(2-3Hz棘・徐波複合)がほとんど持続的に認められ、発作性混迷状態(spike-wave stupor)と診断されました。ジアゼパム、デパケンの投与を開始し、発作は一時的に消退したが、その後再び重積状態となった。パロキセチン(パキシル)を中止して抗てんかん薬(フェニトイン)を追加したところ、発作は消失した。その後抗てんかん薬をも漸減中止したが発作の再発はなく、脳波上も発作波の出現を認めなかった。

本症例は、パロキセチン(パキシル)投与後に始めて出現した発作性混迷状態(spike-wave stupor)であり、この薬物によるてんかん発作であろうと考えられた。この例は高齢者でもあり、薬剤耐性が低いことも誘発因子と思われた。

最近新しい抗うつ薬が続々と発売されているが、その使用には充分な注意が必要である。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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