外科手術によってもっとも治り易いてんかんは内側側頭葉てんかんである。手術方法は比較的容易であり、術後の副作用も少ない。発作改善率は60-80%におよび、薬物療法をはるかに凌駕する。数年間薬物療法で発作が治まらない場合はぜひこの手術を受けることをお勧めする。最近、日本てんかん学会ガイドライン作成委員会はこの内側側頭葉てんかんの診断・手術術式についてガイドラインを発表した。
内側側頭葉てんかんはきわめて特徴的な発作症状を持つので、その症状を詳しく聞くと大体の診断がつく。その発作症状は従来から複雑部分発作と呼ばれてきたものである。
1.多くの場合発作の直前に信号症状があるので、発作が来るのを予知することができる。これは上腹部不快感(何か胸からこみ上げてくるような感覚)を覚え、まもなく恐怖感、既視感(以前過去にどこかで経験したことがあるというような奇妙なる体験)、異臭、離人感(現実感覚の喪失)などが襲ってくる。
2.すると意識が喪失し、動きが止まり、瞳孔散大し、一点を凝視するような目つきをする。口を舐めるような動きや、あるいはその場にそぐわない無目的な動きをすることもあろう。脳の焦点と反対側の上肢の伸展・ねじれなどが見られることもある。
3.時に引き続き全身けいれんに移行することもある。
4.その後比較的長いもうろう状態や見当識障害や記憶障害が見られる。
以上のような症状が見られればそれは内側側頭葉(海馬・扁桃核)に焦点を持つ側頭葉てんかんであり、手術の対象となる。
外科手術の前に確認しておく検査がある。それは
1.頭皮上脳波(特に睡眠脳波)で側頭部に発作波が見られること。頭皮上から発作波がつかまらない場合は蝶形骨誘導(耳の直下から針電極を頭蓋底深部に挿入する)なども使用する。
2.MRIで側頭葉内側に硬化像が見られること。この所見があれば内側側頭葉てんかんの診断がほぼ確定される。脳波とMRI所見が一致すれば、頭蓋内に電極を挿入しての脳波記録(手術)は省略されうる。
3.さらに焦点を確認するため脳磁図(MEG)、SPECT、PETなどの画像検査。
4.念のため術前には優位半球の決定のための和田テスト、記憶テストなどを行うのが望ましい。
上記の内側側頭葉てんかんはその発作症状に特徴があり、従って診断は比較的容易である。成人てんかんに最も多く見られるてんかん群であり、外科手術よって治る場合が多い。
数年間薬物療法でとまらない場合は積極的に外科手術を考慮すべきである。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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