85.新薬 ガバペン(2010年4月号)

過去1年間に新しい抗てんかん薬が立て続けに3種類発売された。それらの商品名はガバペン、トピナ、ラミクタールである。ここ10年間待ちに待った新薬の誕生である。この間、欧米ではすでに多くの新しい抗てんかん薬が開発されており、日本は大きく遅れをとっていたが、ようやく日本でも上記の新薬が使えるようになった。

ガバペンは世界91ヵ国でてんかん治療に使用されており、10年以上もの臨床実績をもつ薬剤だが、どうして日本でこんなに承認が遅れたのかは不思議である。

この薬は確かに部分てんかんには有効な場合が少なくない。副作用として眠気などが来る場合がある。しかし副作用は一般に軽微であり使いやすい薬である。
ここに極めて有効だった症例を上げる。

患者は当時30歳女性、4歳のときに顔と眼を左側に向け、左半身からはじまり、全身を巻き込むけいれん発作が発現しました。発作の後に一時的な左片麻痺が残す事がしばしばみられました。

このような発作は、年に2~3回程度でしたが、20歳過ぎ頃から頻度が増え、左手左顔だけの軽い発作がほとんど毎日発現するようになりました。時に痙攣は左手と顔から左足に波及し、意識を失って倒れる事も少なくなかった。

発作の状態と脳波像、CT所見から、局在関連性てんかんで、焦点は右頭頂葉にあると判断致された。従来の抗てんかん薬では改善されず、発作は難治な経過をたどった。

そこでこの患者さんに、バルプロ酸にガバペンを併用したところ、発作が著しく減少した。投与直前には1ヶ月に21回あった発作が、ガバペン投与後には月2回に減少し、改善率は80%に上がった。

現在販売されている抗てんかん薬は、2剤以上併用すると、互いに他の血中濃度に影響を及ぼし、使い方が難しい点があったが、ガバペンはフェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸、フェノバルビタールといった他の抗てんかん薬との薬物相互作用を起こさないので使いやすい。

一方この薬が一般に広く使われるようになると、今まで気づかなかった効果や副作用が目に付くようになった。それはこの薬剤が症例によっては情緒や感情に影響を及ぼし、抑うつ気分になったり、逆にうつ状態が改善したりすることがあるという点である。

これは同じ新薬であるトピナにも共通に見られる所見で、上手に使えば感情をコントロールできるかもしれない薬剤である。

従来の抗てんかん薬のバルプロ酸(デパケン)やカルバマゼピン(テグレトール)は気分を落ち着かせ、精神を安定させる作用がある薬剤でもあるので、気分変調症やうつ病にも使われてきている。 ガバペンもまたそのような作用が期待できるかもしれない。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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