今まで抗てんかん薬の副作用について述べてきた。それらはフェノバルビタール(商品名フェノバール)、フェニトイン(商品名アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(商品名テグレトール)、バルプロ酸(商品名デパケン、バレリン、セレニカ)、ゾニサミド(商品名エクセグラン)などであり、これらの薬剤は大変有効なので、単独で使用しても発作を抑えるのに十分な力を持つ。したがってこれらは現在第1選択薬として多くの患者に使われている。しかしよく効く薬ほど副作用も厳しいものがある場合が多い。逆に副作用がないという薬はあまり信用しないほうがいい。なぜなら効果も少ないからである。副作用を十分に知った上で、有効な薬を適正に使用したいものである。
今回はエトサクシミドという薬について述べる。この商品名はザロンチン、あるいはエピレオの名前で市販されている。欠神発作に特異的に有効な薬である。欠神発作に有効であるが、強直発作やミオクロニー発作にも有効な場合がある。しかし強直間代発作(大発作)や複雑部分発作には無効である。
欠神発作に有効なバルプロ酸(商品名デパケン、バレリン、セレニカ)は強直間代発作(大発作)や複雑部分発作にも有効であるので、これが登場してからは、エトサクシミドの使用頻度は大きく落ちた。それまでは欠神発作に特異的に有効な抗てんかん薬の主役の一つであったが、最近は主役の場を失い、ついにザロンチンは製造中止となった。エピレオはいまでもまだ生き残っている。生き残っているといっても「売れなければ製造を中止」するといった、製薬会社の経営上の問題のみで製造中止を決められては困る。私は今でも欠神発作を持つ難治てんかんの数例にこの薬剤を使っているので完全に製造中止にされると困るのである。
エトサクシミドの主な副作用は胃腸障害である。食欲不振、悪心、嘔吐、胃部不快感などは多く、しゃっくりが止まらないなどという症例に出会ったことがある。その症例ではしゃっくりが3日も止まらず、ついに吐血したので発作には有効であったが、やむを得ず中止せざるを得なかった。しゃっくりも連日続くと胃が痛んで容易に出血するという消化器内科医のコメントを得た。強いストレスは、数時間以内にも胃がただれ出血を起こす可能性があるとのことだった。
副作用の一つに白血球減少と再生不良性貧血がある。造血組織が障害をこうむることがあるので注意が必要だ。私は少なくとも3-4ヶ月ごとに採血して貧血や白血球の減少がないことを確認することにしているが再生不良性貧血にはまだ出会ったことがない。
そのほかまれな例では、全身性エリテマトーデスといわれる疾患がある。発熱、皮膚発疹、腎障害などをきたす重篤な疾患が報告されている。幸いなことには私はこのような疾患には出会ったことがない。白血球減少は時々出会うがいずれも重篤ではない。
抗てんかん薬の副作用は時にはつらいものがあるが、主治医と十分な意思疎通を図って、乗り越えて行きたいものである。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
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