52.ゾニサミド(商品名エクセグラン)の副作用、知らないと損をする(2007年7月号)

ゾニサミドは日本で開発された唯一つの抗てんかん薬である。この薬剤は1972年大日本製薬会社が開発した商品で、てんかんに対して幅広い有効性を持つ。日本で発売されたが、アメリカで行われた治験の結果、副作用として尿路結石が見つかりアメリカでは承認・発売が中断したしたという経緯がある。

体内の老廃物は主に腎臓で吸収され、それが尿として尿管を通って膀胱に蓄えられ、膀胱がいっぱいになれば、尿意を催し排尿される。尿中では石ができやすくなっており、尿路結石はこの経路のどこかに固い石ができる事を言う。腎にできた石が狭くて長い尿管を通ってくるときに、途中で引っかかり激しい痛みを生ずることがある。

本薬剤による尿路結石は日本ではほとんど見当たらなかったが。しかしどういうわけか欧米ではそれが高い。アメリカおよびヨーロッパでは505例中13例(2.6%)に尿路結石が見られたが、日本人では1008例中2例(0.2%)であった。そしてこの2例においても尿路結石は自然排出されたという。

どうして人種によってかような違いが出てくるのは不明だが、少なくとも日本においては尿路結石という副作用はまったく心配する必要が無い。しかし欧米で尿路結石の問題が出て、開発・承認が中断したというニュースは日本においても衝撃的に取り上げられ、危ない薬だという誤った考えが一時世間を騒がせた。その後尿路結石の問題は下火になって、それはさほど重大な副作用ではなかったことが証明された。そして本薬剤は小児の重症ミオクロヌスてんかんなど全般てんかん領域にも有効性が確かめられ応用範囲を拡大していった。

しかしゾニサミドにも副作用はある。それは主に眠気、食欲不振などの消化器症状であるが、意欲の減退、動作緩慢、不機嫌など厄介な副作用もある。最近この薬剤によると思われる幻覚・妄想状態が報告されるようになった。統合失調症のような幻聴・被害妄想などが来うるというのである。それが本薬剤によるものかどうかまだ明確ではないので、その因果関係は慎重であらねばならない。

次のような症例に出会った。40歳台の知的障害を持つ男である。幼少時より崩れるように倒れ意識を失う1分ほどの発作が2-3ヶ月に1回の割合にあり、いろいろな薬剤を使っても発作を止めることができなかった。薬の量や種類が多くなるにつれ動作が緩慢になり、作業所でもそれが指摘されていた。ただ一つゾニサミドが若干有効であった。

しかしこれを使うと、機嫌が悪くなり怒りっぽくなるのである。ほとんどの薬が効かないのでいっそのこと薬をやめてみたらどうかと思い、一旦薬を全部やめてみた。その結果特に発作が悪化したわけではなかったが作業所の職員から苦情が来た。「てんかんであるのに何で薬を飲ませないのか」という苦情である。少量のゾニサミドに精神安定剤を加えて経過を見ているがいまのところこれが一番良い。知的障害のある人に本剤を使用する際には注意が必要である。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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