これまでフェノバール、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(テグレトール)の副作用について述べてきた。これらの薬で副作用が出る割合はさほど多くはなく、たとえば100人中副作用が出るのはおおむね数人程度である。薬の量が多くなればその割合が高くなるが、通常の治療量では、発作抑制効果が十分に期待されるので安心して飲み続けてよい薬である。必要以上に恐れることは無い。
しかし一方副作用について十分に知っておく必要がある。中には怖い副作用がある場合があるからである。
抗てんかん薬で最も多い副作用は「眠気」である。フェノバール、テグレトールの「眠気」はあまり怖くはない。減量すればすぐに消えて眠気は消失するので発作抑制の効果があるなら、我慢して飲んでもらうことにしている。フェノバールは吸収・排泄の代謝が遅いので1日、朝・夕2回の服用でよい。そして朝に少なく夜に多く投与すれば、日中の眠気は防げる。テグレトールは吸収・排泄の代謝が早いので、1日2回の服用で眠気が来るようであれば、おなじ量の薬を1日3-4回、たとえば朝・昼・夕・寝る前と小分けにして飲むと、1回の投与量が少なくなるので、眠気などの副作用は避けられる。4回飲むのは大変であるがこれでうまくいっている人も多い。
一方フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)の眠気は怖いので、我慢して飲むようにとは言わない。眠気が来たらすぐ報告して中止するようにしている。フェニトインを服用していて「眠気」と「ふらつき」がきたら危険信号である。そのまま長期に服用しているとその後減量しても「ふらつき」が元に戻らないことがあるので危ない。テグレトールの副作用で怖いのは「発疹」である。薬を続けていると発熱・肝機能障害などが合併して重篤になりうるので、「発疹」が出たら直ちに医師に報告いて、服薬を中止すべきである。
テグレトールはまた白血球減少を減少させることがあるので、定期的に検査の必要がある。
今回はバルプロ酸(デパケン、バレリン、セレニカ)の話をしよう。
このバルプロ酸は他の薬剤に比して危ない副作用は少ないので比較的安全な薬である。しかし極めてまれに、おそらく10万人に何人かという程度であるが、「急性膵炎」の合併症がありうる。急激に腹痛・嘔吐が来て緊急入院になり、「急性膵炎」と診断されたが原因が不明な場合、バルプロ酸が疑われる。「急性膵炎」については私の45年間の経験で2例のみである。
バルプロ酸で最も多い副作用は血中アンモニア濃度が異常に上昇することはたびたびある。これは肝臓に負担がかかっている証拠でもあるが、成人では重篤になることはほとんどない。
しかし小児では血中アンモニアの上昇とともに「急性肝機能障害」をきたす症例がありうる。その出現率は10万人に2-3人という程度であるのでさほど心配することはない。私の経験でこの様な症例は1例も無い。
抗てんかん薬には副作用がつきものであるが、正しく理解して特に「重篤」な副作用については知っておく必要がある。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)