50.カルバマゼピン(商品名テグレトール)の副作用、知らないと損をする(2007年5月号)

前回はフェニトイン(商品名アレビアチン、ヒダントール)の副作用の話をしました。この薬は発作を抑える力が強く、古くから使われおり今でもよく使われが、怖い副作用もある。中でも一番怖いのはふらつき(小脳性失調症)である。ふらつきが出れば、直ちに薬を減量しなければならない。早めに減量すればふらつきは改善し、完全に元の元気な姿に戻る。しかしそのまま放置しておくと小脳の神経細胞が脱落して、その後に薬を減量してもふらつきは元に戻らなくなることがある。血中濃度の測定が診断の決め手となる。血中濃度が20-25μg/mlを超えると危険信号で、40μg/mlを超えると歩行不可能になる。

今回はカルバマゼピン(商品名テグレトール)の話をしよう。

カルバマゼピンは特に側頭葉てんかんの特効薬である。この薬単独で側頭葉てんかんの複雑部分発作は完全におさまる患者も多い。側頭葉てんかんは、脳の側頭葉から起こる複雑部分発作が特徴である。急に意識がなくなり、動きが止まり、ぼんやりした表情になる数分の短い発作である。時にはその後倒れることもある。この種のてんかんにはカルバマゼピンが第一選択薬である。しかしこれにも副作用がある。

カルバマゼピンの副作用は、沢山ある。もちろんすべての人に出るわけではないし、一般に副作用が出る確率はかなり少ない。眠気、ふらつき、複視は薬の量が多くなれば誰にでも出うるが、低ナトリウム血症、白血球減少、肝機能障害はこの薬を長期間使っていなければ出ない。発疹はこの薬に過敏な人で特異体質な人でなければ出ない。

しかし私が最も警戒する副作用は「発疹」である。病状が急激に出現し、しかも重篤になりやすいからである。もちろん他の抗てんかん薬でも「発疹」が生ずるがカルバマゼピンほど重篤にはならない。

次のような症例にあった。30歳代の男性で一瞬意識が消失し、動きがとまる1分前後の短い発作があり、その頻度は週数回あった。脳波で特徴的な発作波が側頭部に見られた。典型的な側頭葉てんかんである。すでに過去にバルプロ酸(デパケン)、フェノバール、フェニトイン(ヒダントール、アレビアチン)などが使われていたが無効であった。

それで常識どおりテグレトールの少量(1日量100mg)からスタートした。薬はきわめて有効であり、発作はほとんど完全に消失した。ところが服用1ヶ月ほどから体に無数の赤い発疹が出現した。近所の皮膚科を受診するも原因が分からず、私に連絡が入ったのはさらに1週間たった後だった。すぐに本薬物を中止したがその時点で発熱を伴っていた。ある総合病院に皮膚科に入院をお願いし、2週間後には完全に回復した。治療が遅れると重篤になる可能性があった。

きわめて稀ではあるが皮膚・粘膜・眼症候群(ステイブンソン-ジョンソン症候群)という厄介で重篤な副作用があるので、カルバマゼピンを服用する患者さんは「発疹」には十分な注意を払う必要がある。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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