49.フェニトイン(商品名アレビアチン、ヒダントール)の副作用、知らないと損をする(2007年4月号)

前回はフェノバルビタール(商品名フェノバール)の副作用について話した。この薬は最も古くから100年近く使われてきた優れた抗てんかん薬であり、今でもよく使われ薬剤ではあるが、その副作用として眠気があり、ちょっと間違うと一日中寝てばかりいることもある。小児ではこの薬を飲むと落ち着きがなくなり、聞き分けが悪くなることもあるので注意が必要である。

今回はフェニトインの話をしよう。この薬の商品名はアレビアチンまたはヒダントールといい。そちらの名前の方がよく知られている。これが世に出たのは1936年で、これは偶然にも私の生まれた年でもある。したがってもう70年を超えたことになる。この薬も優れた抗痙攣作用を有しており、現在でも最もよく使われている薬剤でもある。部分てんかん、全般てんかんのいずれの痙攣発作にもよく効力を発揮する。

この薬の副作用で十分に気をつけなければならないのは、「ふらつき」である。お酒によったような状態になり、ひどい時には歩けなくなることすらある。この薬の通常の使用量は成人ではおおむね100mgから300mgまでであるが、250mgを超えるあたりから薬の血液中の濃度が急に上昇する傾向があるので注意が必要である。血中濃度は20μg/mlまでは安全であるが、20-25μg/mlを超えると自覚的にも「ふらつき」がおこることが多い。40μg/mlを超えると歩行不可能になる。

厄介なことにはこの薬の血中濃度は体調によって変りやすいことである。風邪で寝込んだりすると肝臓で分解する能力が落ちるせいか急激に血中濃度が上昇することがある。お酒と一緒に飲んだりしても急激に中毒量になることがある。

「ふらつき」に気づいたら直ちに血中濃度を取って調べ、フェニトインを減量しなければならない。そうすることによってふらつきは改善する。したがって別に怖い薬ではないが、この薬の中毒に気がつかない場合があることが怖い。特になかなか発作が止まらない難治てんかんの場合、発作による「ふらつき」か、薬による「ふらつき」か見分けがつきにくい場合があり、その際は特に注意が必要である。

フェニトインが怖い薬に変身するのは、そのような「ふらつき」が長期間続いた場合である。私の経験では1ヶ月以上、上記症状が続けばフェニトインを減量しても、もとには戻らない。時すでに遅しである。小脳の神経細胞が永久に脱落し、小脳性失調状態になるからである。

最近次のような症例に出会った。50代の男性患者でも10歳のころから意識が曇る複雑部分発作が月数回あり、フェニトインが使われていたが、風邪をこじらせた後立てなくなり私のクリニックに来た時にはすでに車椅子であった。大小便失禁もあり、家族は難渋した。この状態がすでにもう1ヶ月続いており、フェニトインの血中濃度は40μg/mlを超えていた。早急にフェニトインを減量したら幸いなことに元の健康な体に戻った。危なかった。フェニトインの急性中毒は厳に緊急事態である。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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