今回はバルプロ酸(デパケン、バレリン、セレニカ)の話をしよう。この薬剤は急な副作用も少ないのでもっとも使いやすい薬である。特に全般てんかんには有効なので、そのタイプのてんかん患者さんには第1選択薬として使われる。
全般てんかんとは、脳に器質的な原因がなく、脳波に見られる発作波も最初から脳全体を巻き込んで起こる。脳のある1部分から起こる部分てんかんとはかなり違った症状を示すので、脳波を取ると、どのタイプのてんかんかがある程度診断がつく。
この薬剤を長期に服薬していると肝機能障害が起こりやすく、特にγ―GTPという値が上昇しやすい。会社の健康診断などで、γ―GTPに異常が見つかり、肝機能障害を指摘されたりすることもある。肝機能障害と並行して血中アンモニアの上昇が起こることがある。成人では重症になることはあまりないが、小児では同時に「急性肝機能障害」がおこり、意識障害をきたすことがあるので注意が必要となる。
その他よく聞く副作用に、胃腸障害や肥満、脱毛が来ることがある。飲み始めて間もなくお腹が痛くなり吐き気がすることがあり、長期間服用していると肥満や頭髪の脱毛も起こりうる。
最近、注目されてきた副作用に胎児の奇形と生まれた子供の知的発達障害がある。
奇形にも様々あって大きな奇形は脳・脊髄(小脳症、水頭症、二分脊椎など)、心臓(心房中隔欠損など),腸(食道・腸閉鎖)、顔(口蓋裂)など重症な場合やまた小奇形(小指症、多指症、小顎症、少耳症、耳介低位、尿道下裂、外耳道閉鎖症など)がありうる。
奇形の原因もさまざまで、通常、放射線の影響、薬物の影響、感染などが考えられる。奇形のできやすい期間は妊娠12週の終わり頃まで(特に4-7週)の器官形成時期に多い。薬物としては、過去にサリドマイド(睡眠薬)で児の手足の短縮・欠如がでたのは良くしれられている。抗てんかん薬もサリドマイドほどではないが、奇形が発生する。
奇形の確率は一般では4%、抗てんかん薬服薬中の患者ではそれが6%前後と高くなる。特にバルプロ酸では奇形の発生率が高く、しかも薬の量が増えるにしたがって10%近くなる。カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバールも奇形の確率がやや高くなるがバルプロ酸ほどではない。多剤併用は単剤治療より奇形の確率は高い。特にカルバマゼピンとバルプロ酸との併用は奇形の確率が高いので妊娠可能な女性には避けなければならない。
抗てんかん薬を服用いる患者さんの児に発達障害がありうることが最近の研究で明らかになった。はっきりしているのはパルプロ酸である。英米の共同研究ではバルプロ酸を服用しているてんかん患者さんから生まれた子供が6歳になった時の知能指数は他の抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトイン、ラモトリギン)を服用している場合と比べて有意に低かったと報告している。1000㎎以上の高容量で影響が大きく、言語性IQはこの薬剤の投与量と負の相関があったという。てんかん患者では生まれてくる子供にも配慮が必要となる。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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