172 新薬 ペランパネル(フィコンパ)の感触(2018年12月号)

日本のエーザイ製薬会社の米国子会社が、新しい抗てんかん薬ペランパネル(フィコンパ)を米国で開発し発売した。日本の製薬会社がてんかん治療の新薬を出すのは実に27年ぶりで、薬の開発がいかに困難で時間がかかるものだということが、これを見て読み取れる。

日本において発売されたのは2016年5月からで、実際の臨床に広く使われ始めたのは最近のことである。私もこの新薬に興味を持っており、最近よく使っているので、使い勝手がだんだんわかってきた。現在33例に使っており、いずれも難治な経過をとっていた部分てんかんであったが、発作が半減した有効例は19例(58%)であり、そのうち発作完全消失が4例(12%)であった。これは他の抗てんかん薬と比べても全く遜色ない良い結果である。

抗てんかん薬投与で最も配慮しなければならないのはその副作用である。フィコンパで最も多い副作用は眠気である。したがってこの薬は就眠前に投与することになっている。眠気が来てもいいようにという配慮からである。最初から2㎎、4㎎、6㎎と増量し眠気、ふらつきが出てこない限り、12㎎まで増量できる。私の患者でも耐えられない眠気のため服薬を断念しなければならない患者も数例あった。

その他の副作用として易刺激性、攻撃性、敵意、不安等の精神症状があると記載されていたが、私の経験ではこれらの症状はほとんど見られなかった。

症例を示す。
症例1.40歳台の女性

8歳のころから意識がなくなり、動きが止まりぼんやりするだけで終わる短い発作があった。その頻度は月数回で、色々な薬が試されたが発作は止まらなかった。30才を過ぎてから、幻覚・妄想が出現するようになった。「周りから狙われている」、夫を見て「あなたは本物の夫ではない」などと言って、仕事から帰ってきた夫をドアにカギをかけて家に入れないようにしたこともあった。発作も月に10回ほどとかなりな頻度にあり、難治に経過していた。脳波は左側頭部に発作波があり、側頭葉てんかんと診断された。

この症例にフィコンパ2㎎を1日1回寝る前に夜投与したところ、発作が半分に減少し、4か月後からは発作は完全に抑制された。幻覚・妄想も消えたが、その代わりやや抑うつ的となり時には不安げな表情を示すことがあった。

症例2.50歳台の女性

19歳時に急に右視野が見えなくなり意識を失い倒れ右半身のけいれんがあった。その後も同様な発作が年に数回起こる様になった。軽い場合は、急に意識が曇り、「言葉が出なくなる」、あるいは「間違った言葉が出る」などの失語症発作が月に数回みられるようになった。脳波では左側頭部に徐波の出現があり、MRIでは左海馬の萎縮があり、側頭葉てんかんと診断された。

この症例にフィコンパ(2㎎)1錠から始め、その後3錠まで増量したら、発作はここ3か月間、完全に抑制されている。この薬は側頭葉てんかんを代表とする部分てんかんにかなり有効であり、第1選択薬はカルバマゼピンであるが、そのうちいずれ第2選択薬になるであろうと思われた。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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