168 摂食てんかん(2018年4月号)

てんかん発作はいつ起こるかわからない。なんの引き金もなく突然起こるのが普通のてんかん発作である。これに反してある種の刺激、例えば光や音などの刺激によって発作が引き起こされることがあり、これを「反射てんかん」と呼ぶ。てんかんの中でもごく限られた人がこのような発作をもつ。したがって外部からの刺激(誘因)を与えることによって、反射的に発作を誘発することもできる。目、耳、触覚などのほとんどすべての感覚で発作が引き起こされる場合があり、さらに複雑な精神活動、例えばさらに「思考」、「決断」などでも発作が引き起こされることもある。

最も多いのが視覚関連で、道路を歩いていて木々の梢から漏れる木漏れ日、水面に反射する光、さらにより複雑な模様、例えば壁、天井、屋根、エスカレーター、本の表紙などの縦・横の模様などにより発作が引き起こされる場合もある。「光過敏てんかん」といい、ポケモン発作などがその典型的な例である。これについてはすでに述べた(2004,10月号)。さらに複雑な視覚要素が関連する場合、例えば「読書てんかん」などもある(2004,12月号)。

また音や触覚の刺激も発作の引き金になることがある。突然の車の警笛、後ろから突然肩を叩かれたりすることで、びっくりして起こる、びっくりてんかん(2004.11号)がある。もっと複雑な音刺激としては、音楽を聴くと発作が起こる「音楽てんかん」(2005.2月号)がある。

複雑な温度感覚が関連する発作もある。風呂に入り、風呂温度が40度近くなると、きまって発作を起こす「入浴てんかん」の1例を報告したことがある。この場合、発作は意識減損発作で、意識を失い、うろうろ歩き回る複雑部分発作を特徴としていた。

複雑な高度の「思考」により発作が引き起こされる場合もある。計算という作業が、発作を引き起こすことがあり、これを「数学てんかん」(2004.12月号)と呼ぶ。また迷いつつある種の決断した時に発作が起こる「意思決定てんかん」(2005.1月号)というのがある。マージャンなどやっていて、大きな賭けをして、運よく賭けが成功した瞬間に発作を起こす「麻雀てんかん」である。「反射てんかん」では発作を誘発する因子が多数あり、人間の脳の不思議な作用に驚かされる。今回は食事をすることによって引き起こされる「摂食てんかん」についてはなそう。

 症例30歳台の男 
15歳ごろに、一度食事中にめまいのような予兆があり、意識を失って倒れることがあった。その後20歳時に再び食事中に同様な発作がおきた。最近になって発作が増加し、ほぼ毎月1回は起こるようになった。発作は決まって、夕食時であり、食後5分ぐらいで、急に頭がもやもやしてその後意識を失う。「アー」と声を上げ、全身を硬直させ倒れる。目を大きく見開き、眼球は右上方をにらみ、手足をバタバタさせる約2-3分のけいれん発作である。発作への恐怖で食事が十分にとれず、体重は減少した。発作は食事の内容には関係がない。

脳波で異常があり、おそらく左前頭葉・側頭葉起源と推定された。摂食てんかんはきわめて珍しい。私はいま3000人ぐらいのてんかん患者さんを扱っているが、このような例は初めてである。一般にその出現率は0.06%であり、5000人に1人程度であるとされている。そして難治で治療抵抗性を示すといわれている。世の中には不思議なてんかんがあり、驚くかされる。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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