・情緒不安定パーソナリティ障害
てんかん患者さんの中には些細なことで、怒りが誘発されることがある。知的障害や発達障害があり、理解力が足りなかったりする例では、周りにうまく適応できず、ちょっとしたことでも短絡反応を起こし、いらつくこともある。
統合失調様症状のある方は、幻覚や妄想に支配され騒ぐこともあるが、統合失調症状が収まれば、いらつきは落ち着く。子供であれば、親との折り合いが悪くなり、騒ぐこともあろう。このように怒りが誘発される原因は様々であるが、その程度はおおむね軽く、通常緊急な治療が必要とはならない。
しかしまれには性格の偏りが激しく、大きなトラブルや犯罪や事故になる例もある。最近出版された精神疾患の国際分類に「精神および行動の障害」という項目がある。そしてその中に、「情緒不安定性パーソナリテイ(性格)障害」という項目がある。
これには次のような記載がある。「感情の不安定さがあり、結果を考慮せず、衝動に基づいて行動する。あらかじめ計画を立てる能力がきわめて乏しく、強い怒りが突発し、しばしば暴力あるいは「行動爆発」にいたることがある。これらの衝動行為は他人に非難されたり、邪魔されたりすると容易に促進される。通常、絶えず空虚感があり、激しく不安定な対人関係に入り込んでいく。
以上の記載は、暴力的な人格障害を持つ例で、内容は難しくわかりづらい。しかし簡単にいうと、乱暴な性格で犯罪にもつながる可能性がある患者といえる。
その頻度はそれほど多くないが、いったんこのような患者と出会うと、その治療が大変で下手をすると、犯罪に巻き込まれる可能性もある。精神科の医師はこのような患者さんに出会うことがあり、上手に付き合わないと混乱に巻き込まれる。
・心にゆとりを取り戻すには
私はここ50年以上、精神科診療しているが、この間、数例のこのような患者を経験した。彼らは知的レベルが比較的高いが、衝動的に行動するので扱うのが大変難しい。
私が経験した数例のうち、衝動的に薬物依存に走ったり、交通事故を起こし大怪我をしたり、はてまた自殺した例もある。ここまで困難ではないが、その「予備軍」がおり、心に余裕がなく、危ない。しかしそれでも、何とか精神医療の線に載せられないものかと考えた。そして考え付いたのは「大丈夫です」、「ありがとう」、という言葉をまず患者さんの口からいってもらうことだった。患者さん自身が、この言葉を自由に言えるようになれば、より辛抱できるようになり、心にゆとりが生まれると考えた。試しに数人の患者さんに、「大丈夫」.「ありがとう」と口に出していってもらったら、気持ちがすっきりしたという笑顔が返ってきた。心が開かれた瞬間である。これからもこれを継続しようと思う。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)