てんかん発作があったということに気付かない患者さんがいる。倒れてけいれんを起こす大きな発作は患者さんの多くが気づいているが、一瞬意識がとんで短時間で終わる、小さな発作は本人が気づかない場合が多い。ボーとした表情になり、呼びかけても返事しない短時間の意識消失発作がそれである。この間動作が止まり,目を見開いて、石のように固まってしまう。あるいは意識がないまま歩き回ったりすることもある。これは側頭葉てんかんの一つで、複雑部分発作、または意識減損発作とも呼ばれる。最近高齢者になって初めて発病するてんかん患者が多くみられるようになったが、彼らの多くがこのタイプの発作を持つ。本人は発作に気付いていないが、家族は早いうちからおかしな発作に気が付いている。本人に聞いても、そんなことはないと頑固に否定するので家族が困ってしまう。詳しく問い詰めたり、説得したりすると夫婦喧嘩になることもある。
例を示そう。
症例1.現在80歳台の男性。
45歳時より意識減損の発作が始まった。動作が止まり、うーんと声を上げ、口をくちゃくちゃ動かす1分前後の短い発作である。頻度は月1回程度であるが、発作の自覚が全くないない。「今ちょっとわからなくなったでしょ」といっても「そんなことはない」という。あまりしつこく問い詰めると、「ない」といって不機嫌になる。50歳の頃より物忘れが多くなった。孫を娘と勘違いしたり、昼食を2回食べたりした。夜間トイレの電気スイッチのつけ方わからなくなったりした。認知症が疑われ、脳波の検査の結果てんかん性異常が見つかり、てんかんと診断された。抗てんかん薬が処方され、発作は完全に治まり、物忘れもなくなった。しかし奥さんが「発作があった」と言い張ると患者は決してそれを認めないので、夫婦で言い合いになり、いつも引っ込むのは妻の方であった。
症例2
40歳時、夕方突然倒れ全身のけいれんがあった。3年後同様な発作があった。45歳時より意識減損の発作が始まった。動作が止まり、うーんと声を上げ、口をくちゃくちゃ動かす。持続時間1分前後、頻度月1回。本人には発作の自覚が全くない。「今発作起きたでしょ」といっても「そんなことない」といって怒る。
発作が起こると妻が腕をつかんで「エイ・エイ」と気合を入れる。すると発作は止まると妻は考える。妻はこの動作をいつも繰り返し、発作を気にして過剰に監視するようになった。本人はそれを嫌がる。自分は発作に気付いていないんだから、発作があったかどうかわからないが、妻が厳しく監視するので何とかならないかと本人はぼやいた。発作を観察するのはいいことだが、過剰な注意は好ましくない。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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