日本てんかん学会はてんかん患者に見られる精神症状に関する診断・治療のガイドラインを作った。そこには重要な前書きがある。
「てんかん治療はとかく発作のみに注目され、患者の持つ精神的苦悩に目が向けられない傾向があった。てんかん診療に当たるすべての医師は、患者の精神的訴えにも時間をかけて聴取し、患者の置かれている心理・社会的状況を理解し、精神的苦悩に対する指導と援助を行う必要がある」とある。
てんかんをもつ人々は発作以外にも様々な精神症状や悩みが多い。その精神症状はきわめて多彩で原因・誘因も複雑である。てんかん発作と密接に関連した精神症状もあり、また逆に発作とはあまり関連しない症状もありうる。このように精神症状が複雑で分りづらいこともあり、また時には発作そのものよりも対応が困難な場合もあるので、昔はてんかんの暗い裏の側面と思われてきたこともあった。
しかし時代が変わり、精神医学も進歩した現代では「統合失調症」、「うつ病」、「認知症」「人格障害」「自閉症」「アスペルガー症候群」などという言葉がテレビ画面に流され、人々はそれを聞いてもあまり抵抗を感じなくなってきている。
一般に精神疾患はWHOが作成した国際疾患分類の「精神および行動の障害」(ICD-10)で分類されている。この分類は行政面でも広く利用されているので、便利になってきている。しかしこの分類はてんかんなど、原因を全く考慮に入れていない精神症状の分類であり、てんかんの精神医学的な合併症を必ずしも反映していない場合が多い。
てんかんという病気に、より密接に関連した精神症状として、日本てんかん学会ガイドライン委員会は以下の三つの場合を提示した。
1.発作周辺期精神症状:発作と関連した一過性の精神および行動の障害。たとえば、発作前駆症状、非けいれん性てんかん重積状態、発作後もうろう状態、発作後精神病状態などである。これらは、通常は適切な抗てんかん薬投与による発作の抑制が治療の原則となる
2.発作間欠期期精神症状:たとえば精神病性障害(幻覚妄想状態など)、気分障害(うつ症状など)、人格障害(性格障害)、解離性障害(偽発作)などがあり、通常の抗精神病薬が治療の主体になる。
3.抗てんかん薬による精神症状:薬の副作用による精神症状である。治療のために用いた抗てんかん薬が、逆に精神病性障害や気分(感情)障害などの精神医学的合併症の原因となり、それが見過ごされていることがある。この予防には抗てんかん薬の追加投与や変更に際して、十分な指導や観察が重要となる。
複雑な症例はてんかん専門医に紹介すべきであろう。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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