47.強力抗精神病薬が危ない (2007年2月号)

前回は抗うつ薬が危ないという話をした。抗うつ薬でてんかん発作が誘発されるケースが最近増えてきたからである。本当のうつ病患者さんなら抗うつ薬の使用はやむをえないし、それで病気はよくなるが、単に神経症(ノイローゼ)とおもわれる患者さんに、抗うつ薬のみならず睡眠剤、多数の抗不安薬などが同時に多量処方されており、言ってみれば薬が乱用されているケースが最近目立つ。その中にはてんかん発作を起こす人もまれには出てくるのである。抗うつ薬の注意書きにも重大な副作用として必ず痙攣発作がありうるとの記載があるが、あまり重大視されていないようである。 今回は抗精神病薬の話をしよう。

精神症状が厳しくなるとどうしても薬の量が多くなる。症状が激しいときはやむを得ず抗精神病薬の量や種類も多くなる。私は必要であれば大胆に大量の強力精神病薬を一時的に使うことにしている。軽い安定剤を使うより即効性があるからである。しかし同時に副作用も厳しいものがありうることを十分に知らなければならない。副作用が強烈で、ぐったりとして死んだような毎日を送ることになることもある。抗奮期にはそれでもやむをえないが、症状が安定すれば出来るだけ早い段階で薬の減量に取り掛かりたいものである。しかし安定したからといって、薬を減らしたら病状が悪化し失敗に終わることもある。しかし症状も悪化せずに無事、薬を減らして元気になった患者さんも多い。

抗精神病薬でてんかん発作がおきた例を紹介しよう。

激烈な症状を持つ躁うつ病の女の患者さんである。発病は17歳頃で、躁状態とうつ状態が2-3日でめまぐるしく変る難治な精神疾患である。そのため過去10年以上精神病院に長期入院となった。入院中も病状が改善せず、やむなく施錠した保護室に長期間隔離せざるを得なかった。躁状態になると、一日中寝ないでしゃべりまくり、ドアげりや乱暴などめちゃくちゃな行動があり、やむなく強力精神安定剤であるレボメプロマジンを600mgまで増量した。これは極量の倍ぐらいの量である。通常はその量で落ち着くのが普通であるが、本患者はそれでもまったく落ち着かず、1週間後には全身の痙攣発作が3回たて続きにおきたのである。直ちにレボメプロマジンを減量中止した。

数年後再び同じ状況になり、レボメプロマジンを400mgまで使用したところ再び全身の痙攣発作がおきた。この症例は精神症状が激しいので、かなりの量の薬が必要であったが、それだからこそ副作用には十分に注意が必要であったケースである。

このように痙攣発作を起こしうる抗精神病薬は多い。しかし通常の使用量ではあまり発作は起こらないが、極量を超える大量の強力精神安定剤は発作の起こる確率は高くなるので注意が必要になる。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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