37.打たれ強くなれ (2006年4月号)

繊細な心を持ち容易に傷つきやすい人がいる。友人、上司、同僚などのちょっとした言葉にも傷つき落ち込む。これを「言葉の暴力」という。「セクハラ」、「アカハラ」という言葉もある。「セクハラ」とは「性に関する嫌がらせ」であり、直接体に触れたりするのは悪質で、犯罪行為になるが、また不愉快になるような「性に関する言葉」を浴びせかけたりするのも、「セクハラ」となる。

「アカハラ」という言葉もある。「アカデミック ハラスメント」の略であるが「自分の能力が否定されているような」言葉を浴びせかけられ、ショックを受ける場合である。「馬鹿」、「無能力」、「お前は何をやらせてもだめだ」などと頭ごなしに上司から言われたら、誰でも不愉快になる。問題となるのは上司から発せられた言葉が部下を傷つけ、部下が反論できないときに起こりやすい。みんなの面前でいやみを言われたら、ショックを受ける。外傷後ストレス症候群(PTSD)だといえるかもしれない。

最近いろいろな会社や学校で「セクハラ対策委員会」なるものができるようになった。そこではそのいやがらせが事実かどうか、また「セクハラ」、「アカハラ」に該当するのかどうかが検討される。国立病院や大学などもそのひとつである。そこでは被害を受けた人をどうすれば救済できるか、再発をどうしたら予防できるかということもあわせて議論されている。被害者は泣き寝入りせずに「セクハラ対策委員会」などに提訴ようになった。そして「セクハラ」ととられやすい行動の具体例が「セクハラ対策マニュアル」などとして作られるようになった。

精神科のクリニックを開いているとこのような「セクハラ」「アカハラ」の被害者が来ることが多い。先日も次のような患者さんが私のクリニックを訪れた。上司から「お前は何をやらせてもだめだ」などと皆の前でいわれ、酒の場では「お前の初体験はいつだ」などと、いやみも言われてついに職場に出れなくなったというのである。誤解を招くような言葉は厳に慎まなければならないが、医師にはその真偽を確かめる方法はない。ただ傷ついた女性は繊細で神経質な性格の持ち主であった点も考慮に入れなければならないと思った。彼女は対人関係が苦手で友人を作ることができなかった。他人に見捨てられるのではないかという不安が強く、そのため必要以上に努力して人のために尽くし、裏切られたと思うとすぐに切れるのである。「あなたは私の恩人だ」と大げさに感謝していたかと思うと、次には「あなたは私の人生をめちゃくちゃにした」となじるのである。感情が不安定で「理想化」と「こき下ろし」の両極端を激しく動くので、結局友人は自分から離れていくのである。自傷行為もあり、手首を傷つけたり、服毒自殺を図ったりしたこともあった。

このようなタイプの人は人格障害と診断される。てんかんという病気とこの種の人格障害をあわせもっている人も多い。そして人格障害のほうがてんかんより治療が厄介である。

人は誰でもいい面と悪い面があり、悪い面も許容して「清濁併せ呑む」という気構えが必要である。そしてちょとやさっと打たれても参らないような「打たれ強さ」があってほしいとかねがね思っている。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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