今年6月20日、札幌で開催された第120回日本精神神経学会の主題は「自殺」であった。川内千秋会長はこう述べている。「ストレスやメンタルヘルスの不調が行きつく最も悲惨な結末は自殺だといえます。これらの人に対してどのように向き合うべきか、そして何ができるのかを真剣に考えなければならない」
日本において、自殺者は平成14年には年間3万人を超え、その後減少しているとはいえ、まだ年間2万人を超えており、主要先進7か国のうちでも最も高い値を占めている。平成18年に「自殺対策基本法」ができ、平成28年には都道府県、市町村に自殺対策計画を義務づける法案ができたがまだ十分とは言えない。
私のてんかん患者さんでも「死んだ方がいい」、「こんな苦しいのは嫌だ」と自殺を口に出す方や、実際に腕をナイフで傷つける人(リストカット)する患者さんは、かなり多いが、実際に自殺を試みた人は1人だけである。
40歳の男性、右側頭部内側に焦点を持つ、側頭葉てんかんで、発作は意識消失のみで終わる軽い発作が週数回、倒れて全身けいれんが月1回ほどあった。発作は難治で、ほとんどの抗てんかん薬を試みたが改善しなかったので、それで最後に右側頭葉切除術をおこなうことになった。手術は成功したが、発作は治まらず、家族から苦情が出て、法的な争いごとが起こった。家族は本人と母親のみで、争いは1年ほど続いたが、彼自身も悩み、ついにある日、高所から湖に身を投げ死亡した。母親と医療者との争いに、身の限界を感じたらしい。
自殺に至る人の多くが、自己肯定感が低い。このことについては前回(203号)に書いたが、重要なのでまた繰り返し説明する。
その特徴は
- 今の自分が嫌い
- 周りの人からの評価が気になる
- 家族や友人から大切にされているという実感がない
- 自分は役立たずだと感じることがある
- 朝起きるのがつらい
- 人に相談するのが苦手などである
一方、自己肯定感が強い人は
- 周囲の目が気にならない
- メンタル面が強い
- 生き方を大切にしている
- 人生を楽しんでいる
- 自分の欠点を認めたうえで、ポジテイブに変換できる
どうしたら自己肯定感を高めることができるだろうか。それは本来の自分を受け入れ失敗を否定しないことから始まる。
これは言うのは簡単だが、やるのは難しい。自己肯定感を生むには「心の筋トレ」が必要である。それを育てるためには、本人をほめることから始める。
- あなたは自分に正直で、嘘はつかない。
いいことです - つらい時はつらいと言い、楽しい時は楽しいと笑え
- いやがらせしない、他人を馬鹿にしないのも大切
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)