「抗うつ薬」を飲んでいる人で、まれにてんかん発作を起こす人がいる。抗うつ薬が発作の原因になっているかどうかは必ずしもはっきりしないが、何か関係があるらしい。このことについてはすでに「ともしび 第46号.抗うつ薬が危ない (2007年1月号)」に書いた。この患者は、初老期うつ病の患者で抗うつ薬パキシルが20mg処方されていたが、まもなく意識がぼんやりし、話もできなくなる数日続くエピソードを繰り返すようになり、脳波を検査したところ、全般性のてんかん波が連続して見られ、発作によるもうろう状態と判断された。抗うつ薬を中止し、抗てんかん薬に置き換えたところ、発作は消失し脳波は正常となった。
その後私は抗うつ薬を服用している患者さんには注意して観察していたが、やはり同じようにてんかん発作を発症する患者にであった。
症例を述べる。
症例1. 40歳男。35歳からうつ病で、抗うつ薬のミルナシプラン(25㎎)を毎日2錠服用することになった。2年後なんの誘因もなく自宅で倒れ、全身のけいれんを起こした。その後まもなくうつ状態が改善したので抗うつ薬も中止した。しかし41歳時うつ病が再発し、再び抗うつ薬(ミルナシプラン)を服用したが、翌年42歳で、再度てんかん発作が再発した。しかも立て続けに1か月3回の発作が出現した。このようなわけで当院を緊急受診した。当院で何とか抗うつ薬減量中止できた結果、その後発作はない。
症例2. 35歳の男 2年前33歳で、うつ病を発症、抗うつ薬(パキシル20㎎)など服用していたが、36歳で発作を起こすようになった。突然意識を失い、階段から転倒して骨折した。さらに1年後、朝、台所で意識消失して倒れた。当院で脳波を検査したが、脳波には異常がなかった。脳画像CT,MRIなどの検査でも異常はなかった。仕事の都合上当院の通院はむりとのことでその後の経過はわからない。
その後私は抗うつ剤を併用してから、初めててんかん発作を起こした症例を7例経験した。いずれの症例も成人であり、脳に何らの器質的異常がなく、かつ知的障害もないかたである。このような方で、抗うつ薬を飲み始めてまもなく、てんかん発作が起きた時、ひょっとすると抗うつ薬が悪さをしていたのではないかと考える。このような症例は数が少なく、その因果関係もはっきりしない。しかし抗うつ薬は脳神経を賦活かさせるので、脳細胞が興奮して、てんかん発作を起こしたと考えてもおかしくはない。抗うつ薬も注意して使う必要がある。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)