15.てんかんに合併する心の問題:偽発作(その1)(2004年6月号)

前回は強迫性障害について述べてみました。強迫性障害とは本人の意志に反して、繰り返し何回も出現する「考え」あるいは「行動」で、「必要以上に何回も戸締りを確認する」とか「長時間何回も手洗いする」とか「異常なる潔癖症」などがあり、本人はそれが無意味で、馬鹿げたことと自覚しており、やめようと努力するのだが、やめられないので苦しいというものです。自閉症児の「体ゆすり」、「抜毛」、「頭叩き」、「体を引っ掻く」、「手を噛む」などの「自傷」や「こだわり」もこの範疇に入る。てんかん患者さんの中にはこの様な「こだわり」を持つ人もけっこう多いようです。

今回は「偽発作」について述べます。「偽発作」はてんかん発作に似ているが、本当のてんかんの発作ではなく、身体的な原因がない発作を言います。この「偽発作」はてんかん患者にはかなり多く見られる現象で、現在の精神医学では「解離(転換)性障害」と呼ばれています。解決できない問題と葛藤により生じた不快な感情がこのような症状に置き換わることによって生ずると考えられています。「心の葛藤」が転換されて出現するため、「転換」という言葉が用いられています。両者とも「テンカン」と発音しますのでちょっと紛らわしいですね。

この解離性障害はもちろん、てんかん患者ではない普通の人にも出現します。しかしてんかん患者ではその発生率が有意に高く、したがって「偽発作」という言葉が「てんかん学」の方から提起されました。精神科領域では「偽発作」という言葉は使いません。「解離(転換)性障害」という言葉を使います。

その症状について以下少し解説を加えます。

1.健忘:最近の重要な事柄の記憶をまったく失ってしまう状態で、ひどい場合には自分が誰だったか、どこに住んでいるのか、どうしてここにいるのかなどすべてを思い出せない状態(全人格健忘)になることがあります。しかし行動はまとまっており、買い物や交通機関の利用など日常生活には支障がない。私の経験では、てんかん患者の偽発作ではこの症状は比較的少ない印象を持っています。

2.遁走:家庭や職場から離れて、突然いなくなるなどの症状です。全人格健忘と一緒になるとたとえば遠く外国に出かけて、身元不明人として警察に保護されているということもあります。この症状はてんかん患者では比較的少ないようです。

3.昏迷:意識を失ったような状態、名前を読んでも返事せずボーとしている状態、あるいはなにか聞いてもとんちんかんな返事しかできないような状態がしばらく続きます。てんかん患者に見られる「解離(転換)性障害」(偽発作)としては、この「昏迷」が一番多く、実際に本当のてんかん発作かどうか鑑別が必要となります。本当のてんかんによる意識障害はその持続時間が一般に短く、長くとも数分以内であることが多いが、偽発作の昏迷の場合はその持続時間がかなり長く、たとえば10数分あるいはそれ以上などと長いので、ある程度の区別がつきます。

(次回に続く)

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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