146.金縛り現象(2015年5月号)

今まで睡眠中に起こる、てんかんと似る「発作症状」について述べてきた。人は眠っている時に色々な症状が発作的に現われる。短い発作症状なので「てんかん発作」との区別が問題となる。これに属する症状に「寝ぼけ」、「ムズムズ脚」、「レム睡眠行動障害」(夢を見て騒ぐ)などがあり、これらについてはすでに述べた。今回は「金縛り」について述べよう。

この金縛りは、医学用語ではない。医学的には「睡眠麻痺」という。夜中に急に目が覚め、同時に全身がマヒしたように、あるいは縛られたように体がまったく動かなくなる現象をさす。あたかも体全身が縄で縛られたようにまったく動かない。恐ろしい何者かが体の上にのしかかって、押さえつけられているように感ずることもある。霊などの幻覚が見えることもある。そうなると強い恐怖感を覚えることも多い。

この現象は昔から体外離脱、幽霊や心霊現象として話題になってきた。症状からはてんかん発作とは区別できるが、時にてんかん患者にもこの現象が起こることがあり、鑑別診断が必要になる。

睡眠には「レム期」と呼ばれる時期があり、一晩眠っている間、特に深夜および朝方に短時間ではあるが何回もこの時期に入る。このレム期に入ると、脳は眠っており、体の筋は弛緩するのが特徴である。通常脳(睡眠)と体(筋弛緩)とは同時に起こり、同時に終わる。しかし何かのきっかけで、この同期が崩れ、脳は目が覚めているが、体はまだ眠っており、筋は弛緩している状態がおこる。脳は起きているが体はサボっているともいえる。不規則な生活、過労、時差ぼけなどの時に起こりやすい。

金縛りを持つてんかんの1例を述べよう。

症例 30歳台の男
小2年ごろより次のような発作があった。急に左半身が変な感じになり、右手で左肩を抑える。これは発作の前兆であり、その頻度は月1-2回であった。さらに進むと意識を失って倒れけいれんに至る。この倒れる発作は年に1-2回程度でおきた。薬物療法により発作は完全に消失し、ここ10年間は発作がない。

性格的に神経質で火の元や冷蔵庫の扉を何回も確認するという強迫症状がある。てんかん発作は、左半身の違和感から始まり、脳波では右前頭部に異常が認められ、右前頭葉てんかんと診断された。

発作消失と同時に金縛り現象がおこるようになった。夜中急に目が覚め、体が全く動かなくっている自分がわかる。

呼吸も苦しく強い不安が来る。苦しい。本人は長く感ずるがせいぜい2―3分しか続かない。レム睡眠中は呼吸筋が弛緩しているので呼吸困難が起こることがある。本症例の呼吸困難はこれで理解される。この金縛り現象は、月に1回ぐらいの頻度で起き、特にストレスで眠れない時に出現した。抗不安薬と共に1年ぐらいで消失した。てんかん発作、金縛りは消失したが、強迫症状はまだ収まっていない。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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