前回は「てんかんとうつ病」について書きました。
てんかん発作を持つ患者さんが精神的に落ち込むことはたびたびあり、そのうち本当の「うつ病」になってしまう人も時にはみかけます。「うつ」の症状として「抑うつ気分」、「意欲の低下」、「興味の喪失」、「強い不安感」などが挙げられ、ひどいときには一日中床に伏すこともあります。その原因として発作への不安、病気への恨み、自尊心の障害、個人的羞恥心、就労の困難性、低い経済状態、社会的なハンデキャップなどの社会・心理的環境があげられております。
今回は「不安とパニック」について述べましょう。これらはいずれも神経症(ノイローゼ)の中の「不安性障害」に含められています。この病気の中には「漠然とした不安」がいつも付きまとっており、一日として安心できる時がないという人がいます。これを「全般性不安障害」と呼びます。
これに反してパニックが突然何の誘因もなく発作的に起こるという人もあります。これを「パニック障害」と呼びます。
「パニック障害」は動悸、めまい、冷や汗、息苦しさ、呼吸困難、死の恐怖などが体の内部からこみ上げてきて、いたたまれなくなる発作であり、多くは10分程度で頂点に達します。この出現頻度は高く、一般人口の3.4%という報告があり、てんかんの出現頻度よりはるかに高い。男性では25~30歳、女性では30-35歳にピークがあり、女性が男性より3倍も高い。これは不意に、誘因なく出現するのが本来の特徴であり、そのようなときにはてんかん発作と誤られてしまうこともあります。この発作を一度経験すると、また同じ発作が起こるのではないかという不安が生じて、その結果パニックが起きたときに逃げることが困難な状況を回避するようになります。そして電車、バス、自家用車、などの公共交通機関を利用できなくなることがあります。
「特に混んでいる電車は苦手で、途中何らかの事故で停車したりするとパニックになる」という人が多いようです。窓の開かない電車、便所のついてない電車、高速道路、渋滞などが苦手で、たとえどうにか電車に乗ったとしても、停車駅が少ない急行や特急電車を避けて、各駅停車を選びしかも何回か途中下車して、ようやく目的地まで到達する人が多い。したがって生活習慣がすっかり変わって、社会的障害度は大変高い。閉所恐怖、高所恐怖、対人恐怖、どもり、あがりなども見られるようになることが多い。
そして発作により死んでしまうのではないか、発作により気が狂ってしまうのではないか、重大な病気が隠れているのではないかなどと非現実的で実際には起こりえないことを憂慮するようになる。「不安」が「不安」を呼ぶといえます。
このような不安を持っている人はまた身体的な訴えをたくさん抱えていることが多いようです。これを「身体的な不定愁訴」といいます。めまい、ふらつき、動悸、頭痛、腰痛、手足のしびれ、など数えられないほど沢山の訴えがあり、各地の医者に行って検査してもらったがなんともないといわれ、医者を信じられなくなり、たびたび医者を変えるという状況に陥ることがあります。
これらの「不安」や「身体的不定愁訴」はてんかんをもつ患者さんで大変多く、てんかん発作と区別しなければならない場合もあります。
ここにこれらの精神症状にも詳しいてんかん臨床医が求められる理由があります。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)