108.アメリカより最新情報――てんかんを持つ女性の妊娠・出産はほんとに大丈夫か?(2012年3月号)

2009年、アメリカてんかん学会とアメリカ神経学会の小委員会が合同で、妊娠とてんかんについてのガイドラインを発表した。抗てんかん薬を飲んでいるてんかん女性が妊娠し、出産した時、母体側に異常が増えるかどうかの検証である。つまり出産時の異常や発作の頻度が増えるかどうかについて検討した。そして過去の文献を網羅的に検討し、次のような結論を出した。

1. 陣痛・出産等に異常があれば帝王切開の確率が高くなる。過去の文献を網羅して検討した結果、てんかん患者での帝王切開確率は一般の女性と比較して特に有意に多いとは言えないという。

2. 出産が近付いた時、異常な出血や早期破水も特に多いわけではない。

3. 早期陣痛、子宮の早期収縮、不正陣痛、早産などの確率も特に多いわけではない。

4. 発作の再発も多くなるわけではない。妊娠前に9ヶ月間発作がなかった例では妊娠、出産に際しても発作が再発することはない。

5. 但し、てんかん患者でタバコを吸う人は、早期破水、早産の確率がやや高くなるという。タバコの害がこんなところにも顔を出すとは驚きでもある。

てんかん患者さんの妊娠・出産に際しては胎児に奇形が出る確率が問題となっているが、これに関してはすでに、かなり詳しく検討されてきており、事実に基づいた結論が出ている。しかし出産に際しての母体側の異常、発作が増悪する可能性などはあまり議論されてこなかった。

これら母体側の異常に関する検証が、このガイドラインに示されている。これをみるとてんかん患者の出産は決して危ないものではないことが分る。発作が治まっている患者では、出産に際して発作が再発する可能性も低いという。

しかしまだ発作が治まっていない患者さんの出産に際しては、もう少し詳しい対処の仕方が必要になってくる。現に出産の最中に発作を起こし、立ち会った産婦人科の医師や看護者があわてたという事例もある。最近私が経験した患者であるが、ある産院で出産したが、陣痛の最中に発作を起こした。軽い発作で意識が完全に失われなかったので、立ち会った医師・看護者のあわてた会話を克明に覚えていた。

てんかんの患者さんの出産は当然産婦人科の先生にお願いしなければならないわけだが、その際、発作が悪化する可能性や陣痛・出産時に発作が起きた時の対処の仕方なども丁寧に説明しておくのが紹介医の役割でもある。そうすれば産科医も安心して出産に立ち会うことができよう。

これは手術や内視鏡等の検査などでしばらく薬が飲めなくなる場合も同じである。紹介医はできるだけ詳しく服薬の仕方、発作が起きた時の対処の仕方を指示したほうがよい。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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