前回は自立について考えてみました。患者が成長するにつれ、かならず親離れ・子離れの時期がきますが、これは特に障害者の場合は辛いこともあるようです。しかしこれを適切に乗り越えることが自立に必要となるお話をしました。
今回は話を変えて、てんかんと車の運転免許についてお話しましょう。
つい最近まで、てんかん患者さんには自動車の運転免許が許可されていませんでした。「てんかん者には運転免許を与えない」と法律に明記されていたからです。いったんてんかんと診断されると状況のいかんにかかわらず、運転免許は取れないことになっていました。しかし現実にはかなりのてんかん患者さんが自動車を運転していたのも事実です。てんかんという病名を隠して免許を取得していたことになるわけで、それでもあまり大きな問題になっていなかったことは、裏を返せばこの法律は現実に即していなかったともいえましょう。しかし稀ではありましたが、運転中に発作を起こして事故につながったというケースもあります。 10数年前に、医事新報でこのような事例が出され、法律家の結論として、患者のみならずそれを見過ごした医師も同様の責任があると結論し、議論をかもし出しました。
いずれにせよこの法律が現実にそぐわなくなったことから「障害者に係わる欠格条項の見直しについて」(平成11年8月)に基づき、今回新しい道路交通法(平成14年)が施行されました。
その基本はどのような病気でも一律に運転免許を禁止するのではなく、ある条件を満たせば運転免許を交付するということになりました。それではてんかんの場合にはどのような条件があるのでしょうか。新しい道路交通法は次のように述べています。
(1)発作が過去5年以内に起こったことがなく、医師が「今後、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合。
(2)発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が「今後、x年程度であれば発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合。
(3) 医師が1年の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合。
(4)医師が2年間の経過観察の後「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化がない」旨の診断を行った場合
このようにてんかんでもある一定の条件を満たせば運転免許が取れることになりました。それには医師の診断書が必要になる場合があります。今後てんかん学会認定医(臨床専門医)がそのお役に立つことになるでしょう。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
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