183 てんかんにみられるうつ状態(2021年1月号)

 てんかんに合併するうつ病についてはすでに述べた(第12号。てんかんに合併する心の問題、2004年3月号)。そこでは次のような話をした。「うつ」になると落ち込んで気力がなくなり、人と会うことも話をすることもおっくうになる。ひどくなると電話にも出ない。仕事や家事も出来なくなる。それまでに興味があったスポーツや音楽などにも興味を示さず、新聞やテレビも見ないで一日中寝込むことが多くなる場合もある。また焦燥感や不安が強くなり落ち着いてじっと座っていることが出来なくなることもある、通常朝から午前中は調子が悪く、夕方になると気分がやや良くなるという「日内変動」があることが多い。このうつ状態はストレスがたまれば、誰でも起こりうる現象で、とくに恥ずかしがる必要は全くない。最近では良い「抗うつ薬」が沢山出ており病状もすぐに良くなる場合も多いので、早めに治療に取り組んでもらいたいものである。

 このようなうつ状態は全てんかん患者の2-3割に上るとみられ、無視できない数である。適切な治療によって改善されるので、恥ずかしがらずに早めに治療した方がよい。

症例を示そう:現在50歳の男性、大学卒。
発作歴:中学生2年のある夕方、ひきつけがあり、その後数年に1回と発作を繰り返した。服薬してから発作は抑制されており、仕事も順調であった。
その後服薬も怠ることもなく続けており、発作もなかった。仕事も責任ある地位につき、なおかつ実績と部下の管理も求められ、かなりなストレスのある日々を送っていた。

 そのようなときに10数年ぶりに発作が再発した。全身のけいれん発作で、朦朧状態が続いたので地域の病院に2日ほど入院した。それをきっかけに、仕事をやる気を失い、意欲も減退し、引きこもり、イラつきなどが見られるようになった。心療内科を受診し、抗うつ剤で治療を開始したが、病状は思わしくなく、3か月の休職をとった。その後職場復帰したが1年後再びけいれん発作があり、再びうつ状態となり、再度の休職することとなった。 

 気分が落ち込み、元気がなくなり、家に引きこもった生活となった。家族が一番困ったのは、イラつくことであった。些細なことに不機嫌になり、家族を困らせた。精神安定剤、抗うつ病薬で治療して今はかなり改善している。職場復帰も近い。
脳波では左側頭部に徐波、右側頭部に棘波があり、側頭葉てんかんの診断がついた。 側頭葉てんかんの場合、特発性全般てんかんに比べて、精神症状の合併も多いことが報告されている。

 「うつ病」は大きく二つに分けられており、一つは「大うつ病」(本態性うつ病、遺伝性うつ病とも言う)で意欲の減退、興味の喪失、引きこもりであり、イラつきなどはあまりない。そして「うつ状態」と「躁状態」が交互に起こることもある。もう一つはストレスなどによる反応性うつ状態で、患者数も多く、症状も多彩にわたる。

 てんかんにみられる「うつ状態」は後者に属し、イラつき、不機嫌なども多く、これらの症状が家族を困らせる。最近いい薬が出てきているので、早めに精神科の受診をお勧めする。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする