59.知っていますか、脳磁図について(2008年2月号)

これまでCT検査MRI検査について述べてきた。CT検査は多方向からレントゲン線(X線)を照射して、それが体内で吸収される時の差を利用して体の深いところにある内臓を映し出す画期的な手法である。これによって、まったく苦しまずに静かに横たわっているだけで体の中を見ることが出来るようになった。その後まもなくMRIが利用できるようになった。これは強い磁石の中に体を横たえて、振動する水素原子を利用して映し出す映像である。これにより体の深部などすべての部分を詳細に見ることが出来るようになった。てんかんの場合、その原因となる脳の病巣がはっきりと映し出されるので、てんかんの脳病理と外科手術はその後著しく進歩した。

今回は脳磁図について話をしよう。これは脳の電気活動と一緒に発生する磁力を測定しようとするものである。脳では常に電気的な活動が盛んに行われているが、その電気活動を記録するのが「脳波」である。一方電気が流れるところは必ず磁力が生ずる。この磁力を記録するのが脳磁図である。脳の電気活動はきわめて弱く、1万分の1ボルト(10マイクロボルト)程度であり、それが流れて出来る磁場は、地球上の磁場の1億分の1程度のきわめて微弱な磁気である。したがって脳磁図を記録する部屋は、外部の磁場の影響を完全に遮断する大掛かりな設備が必要になる。非常に小さい磁力を測定するので、金属や磁気を帯びているもの、金具、磁気カード、ポケットベル、時計、ペースメーカーなどは持ち込めない。副作用はまったくないので安全な検査でもある。

脳磁図の長所は、脳波では異常が現れないが、脳磁図ではっきりと発作波を見つけることが出来る場合があることである。逆に脳波で異常が出現しても、脳磁図には何も出ないこともある。その意味で「脳波」と「脳磁図」は互いに足りないところをかばいあう、相互補完的な存在である。

詳しく言えば、脳の電気活動が頭の表面に向かって深部から垂直に飛び出してくるような場合は、それを脳波で捉えることが出来るが、脳の表面に沿って、水平に流れるような波は脳波では捕らえにくい。一方脳の磁力は電気の流れに向かって垂直方面に出てくるので、脳の表面を流れるような電流でも磁力はそれに直角に頭皮上に向かって浮き出てくる。したがって脳磁図で拾いやすいのである。たとえばてんかん発作があっても脳波に発作波が見つからない場合や、脳波に全般性の異常波が出現し、その焦点が分からない場合には、一度脳磁図の検査を受けることをおすすめする。脳波に異常がなくても脳磁図で、発作波を示す場合があり、脳波で焦点が分からないが脳磁図で発作焦点を示してくれる場合がある。

それから脳磁図でもう一つ役に立つことは、その焦点を脳の画像の上に点(ダイポール)として示して、発作発生源を推定することが出来ることにある。したがって脳外科手術の術前検査には欠かせない重要な検査となりつつある。

私が新人医師となったとき、何とか脳の中が見れないものかと夢みたいなことを考えたことがあるが、今はそれが当たり前になっているのは驚きである。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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