58.知っていますか、MRI検査について(2008年1月号)

MRIは脳の内部を細かく描写してくれるので、てんかん脳の病変を知る上で欠かせない重要な検査法である。CT検査のようにレントゲン線を出さないので、放射線に被爆することもない。機械は高価で設備の構造も頑丈に出来ており、一般のクリニックなどでそれを備え付けるのは無理である。しかしきわめて安全で便利な検査であり、大きな病院ではどこでもこの機械を設置している。これにより、いままで分からなかったてんかん脳の病変がかなり明らかとなった。それに伴って、てんかん外科が急速に進歩した。MRIで映し出される病巣は手術可能な場合が少なくない。

MRIの原理は物理をよく知らないと分かりにくい。しかし簡単に言うと強い磁場の中に体を横たえて、一定の周波数の電波を照射すると、体の大部分を占める水の原子核である水素原子(プロトン)がそれに共鳴し一定方向に並ぶ。電波を止めると元の位置に戻る。この戻り方は組織によってかなり異なるのでそれを描出することで濃淡のある画像として捉えることが出来る。人間の体の3分の2は水であるのでこの方法はきわめて都合がよい。体のほとんどすべての部分を描写することが出来るからである。

しかし人間の体を強い磁石の中に入れるので、本当に大丈夫かという問題が起こる。磁場の強さはテスラーという数字で示される。今用いられているMRIは通常0.5テスラーから1.5テスラーまでであり、実験的に6テスラーの強い磁場をもつMRIが作られている。

MRIは強い磁場をもつので、検査室の中に金属類を持ち込むと危険である。金属類はMRIの機械の中に吸い込まれてしまう可能性がある。私はむかし患者をMRI室に搬送するなどに際して、間違ってズボンのポケットに鍵を入れたまま入室したことがあったが、MRI機械に近づくにつれ、それがポケットを突き破る勢いで吸い込まれそうになったことがある。携帯電話や銀行カードなどは強い磁気の影響ですぐにだめになってしまう。従って患者の体内に金属片が残っていた場合(ペースメーカー、脳動脈クリップなど)などではMRIは検査できない。狭い穴倉のようなところに入るので、閉所恐怖症の患者はパニックになるかもしれない。

てんかん患者で手術可能と診断される患者の多くはMRIにて次の所見が得られている。

1.内側側頭葉硬化:側頭葉てんかんでは、病巣に一致してその部の側頭葉の内側に硬化像が見られることがある。度重なる発作により、この部の神経細胞が脱落し硬くなってしまう所見である。MRIをとるとすぐにわかる。

2.皮質形成異常:脳が寸分の狂いもなく完全に作られるとは限らない。かなりな例で脳の一部に作りそこねがあることが分かってきた。それは皮質形成異常と呼ばれ、それが長ずるにつれてんかん焦点となることがある。

3.神経上皮腫瘍:良性の脳腫瘍である。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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