CT検査は正確には、X線コンピューター断層撮影という。体の横断断層を撮影する特殊なX線装置である。これにより従来見られなかった脳の内部が見れるようになった。痛みを伴わずして、脳の内部構造がわかるようになったのは、画期的な発見であった。この原理は1960年代にすでに発表されていたが、実用化されたのは1972年、ハウンズフィールド、アンブロースらよってできたエミスキャンである。
360度の各方面から照射されたX線の吸収の違いを高機能のコンピューターにより分析し、軟部組織から骨組織まで連続した濃淡のある画像として描き出すものである。従ってその実用化は高性能で高速演算ができるコンピューターが出現するまで待たなければならなかった。第1世代のCTは、撮影にずいぶんと時間がかかり、出来た像も不鮮明であったが、第2世代、第3世代、第4世代と急速に進歩して、撮影時間も分単位から、秒単位まで短縮した。
CT検査が出来るまでは、脳の内部構造を見ようとすれば、気脳写と呼ばれる検査があった。これは患者を座位にして腰椎に注射をし、脊髄から空気を送りこみ、それが上昇して、脳内にある脳室を造影するという方法であった。ひどい頭痛と発熱を伴うかなり危険な検査でもあったが、しかし当時脳の手術には欠かせない重要なものでもあった。人間の大脳には左と右に側脳室という大きな室があり、さらに脳内深部中央には第3脳室、第4脳室という小さい室がある。これは脳脊髄液で満たされているが、これを空気で置き換えそれをレントゲンで撮影し、脳室のゆがみや拡大を見ようとした検査である。当時脳の内部構造を見るには、これが唯一の方法でもあった。いまではほとんど使われていない。
また当時脳血管写というものがあった。これは両側の頚動脈に注射針を入れ、造影剤を急速に注入し、それをレントゲンで撮影する検査である。これによって脳内血管やその走行の異常がわかり、脳のゆがみが推定された。この検査はかなり痛みを伴うやや危険な検査法である。脳の血管に出来た動脈瘤や動・静脈奇形などを最終的に確認するには、今でもこの方法が使われている。しかし今では多くの場合MRAなど別の痛みを伴わない画像検査で置き換えられている。
CT検査は次回に述べるMRI検査とともに脳の画像診断としてゆるぎない新しい時代を作り出した。そして脳の先天性奇形など従来わからなかった脳の構造面についての新らしい学問の分野が誕生した。
CT検査の強みは脳の中に出来た石灰化や出血をより鮮明に映し出してくれるところにある。従って脳の病気ではCT検査とMRI検査の両方が同時に行われ、相互に足りない部分を補ってくれる仕組みになっている。
てんかん患者においてCT検査は脳に器質的病巣がないかどうか確認する意味で、どうしても一度は行わなければならない検査法である。痴呆症のように病状が漸次進行する場合は2-3年に一度は繰り返して行ったほうがよい。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
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