脳波検査はてんかんが疑われたときに診断に役立つ。通常てんかんはけいれんや意識障害が発作的に出現し、その持続時間は短い。
長い意識障害はてんかんではない可能性が高い。また意識障害には軽い場合や、重篤な場合もあり、意識障害の程度やその予後は、脳波を見れば大体の見当をつけることができる。
軽い意識障害(嗜眠状態)であれば、自然睡眠に近い脳波像を呈し、それに4-6 Hzの遅い(シータ波)の遅い波が主で、名前を呼ぶなどの刺激で、一時的に正常脳波に戻ることが多い。
深い意識障害(昏睡)であればより遅い1-3 Hzの高振幅の波(デルタ波)が持続的に出現し、名前を呼んでも、強い痛みを与えてもこの脳波所見は変化しない。さらに脳機能が高度に侵されると脳波は平坦となり、脳死の状態となる。
長時間続く意識障害にはてんかんである可能性が低く、脳が広範囲に侵されている場合に生ずる。多くは次のような疾患がありうる。脳の血管障害として脳梗塞または脳出血、脳外傷としては脳挫傷や硬膜下血種、代謝性疾患として低血糖や肝疾患、腎疾患、内分泌異常などがあり、また炎症性疾患としては髄膜炎や脳炎、循環器障害としては心停止による低酸素脳症などがありうる。
私は依頼を受けて、長年ある大きな総合病院の脳波を判読している。この病院は総合病院で、すべての科が揃っており、救命救急室もあるので、緊急な患者はここに集まる。この病院で他科から脳波が依頼されてくる患者は、昔は断然「てんかんの疑い」が多かった。しかしここ10数年は高齢者の意識障害患者さんが多くなった。脳波検査を受けた患者の約半数は後期高齢者となった。例を挙げる。
症例1.80歳の男性、従来から大酒飲みであったが結婚式場で急に意識を失い坐ったまま反応がなくなった。救急車が呼ばれ、当病院の救命救急室に入院した。CT,MRIでさほどの異常がなかったが、脳波では高度な徐波(1-3Hzデルタ波)があり、深昏睡状態と判断された。この状態が2週間以上続いており、診断は未確定である。
症例2.86歳の男性。急に呼吸困難となり、意識を失い救急車で運び込まれた。心室細動で心停止があったが、緊急蘇生術を受け幸いなるかな、心拍動は回復した。しかい意識は回復しない。脳波は平坦脳波(脳死に近い)の上に発作性異常(てんかん波)が頻発する「無酸素脳症」の特徴を示した。回復可能かどうかはある程度脳波で判断することができる。
症例3. 60歳の女性、意識を失い救命救急室に運ばれた。脳波は高振幅のデルタ波で、深昏睡状態であった。あとでわかったが睡眠剤100錠を飲んだ患者さんであった。脳波は徐々に回復し、患者は意識を取り戻した。脳波は意識状態にそって変化し、予後をある程度予測させうる検査でもある。ここ10数年、後期高齢者の救急患者さんが増え、待ったなしの脳波検査が求められるようになった。これも長寿大国の運命なのかもしれない。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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