光感受性てんかんというてんかんがある。光刺激によって発作が誘発される特殊なてんかん群である。このいい例が1997年におきた「ポケモン」事件であった。この番組は当時子供達に大変な人気があったが、この中で突然赤・青の光が点滅する場面が出てくる。これを見た多くの子供たちが「てんかんあるいはてんかん類似」の発作を起こした。これは当時大きな社会的問題となったが、また光感受性てんかんという特殊なてんかんを研究する良い材料となった。
光刺激としては、木々の間から漏れる太陽光、水面に反射する光、電車の窓ガラスに映る外の景色、光が点滅するテレビ画面、火が燃え盛る火事の現場など沢山あり、これらが誘引となっててんかん発作が起こる場合を言う。俗に昔から、「光てんかん」、「テレビてんかん」、「火事てんかん」、「水てんかん」などといわれてきたてんかんがあるが、おそらくこの群に属すると思われる。
ポケモン事件がきっかけとなり、「光感受性てんかん」の研究が進歩したが、この疾患はかなり複雑である。光刺激でのみで発作が起こり、光刺激がなければ発作を起こさない群(純粋光感受性てんかん)や、光でも発作を起こすが、光がなくても発作が起こすことがある群(光感受性てんかん)や、また臨床的に発作は起こさないが、光刺激で脳波上にてんかん性発作波が出現する群(体質性光感受性者–発作がないのでてんかんとは呼ばない–)もある。
また抗てんかん薬が必要かどうかも問題になる。体質的光感受性者では脳波にてんかん性異常波が出るのだが、臨床発作がないので薬は必要ない。テレビの見方などを注意するだけでよい。
日本てんかん学会は上記を網羅的に解説したガイドラインを発表した。「光感受性てんかんの診断・治療」ガイドラインである。これによると光感受性てんかんの頻度は4000人に1人と極めて少ないが、潜在的に光に過敏な体質をもつ例はこれよりもはるかに多いだろうと推定された。
全国の光感受性てんかん652名の調査によると、光感受性てんかん(光刺激でも、また光刺激がなくとも発作を起こす)が63.0%、純粋光感受性てんかん(光刺激でしか発作が起こらない)26.4%、体質的光感受性者(発作はないが脳波異常が光刺激で惹起される)が5.8%であった。
「ポケモン」事件はこの潜在性の光感受性体質者などが偶然に表に出てきた自然の実験室であったともいえる。光感受性てんかんは4000人に1人であり、これは病気が発症した数である。したがって治療が必要である。しかしまだ発症していないが潜在的に光感受性を持っている者は一体どれぐらいいるのだろうか。
欧米での調査では健康正常者全員に脳波検査したところ正常小児の8.9%、正常男子の0.5%は光感受性を示したという。
これは驚くほどの高い数字である。つまり健康正常な小児10人中ほぼ1人弱が、また健康正常な男子200人中1人が潜在性の光感受性体質を持っていることになる。何らかの理由で脳波をとる機会があり偶然に光感受性が発見されたら、治療はどうするのだろう。
答えは簡単である。実際には発作がないのだから薬は必要ない。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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