てんかん発作は突然襲ってくる。いつくるか予想がつかない。発作の前触れがあれば自分で避難できるが、前触れが必ずしもあるとは限らないし、仮に前触れがあったとしても危険から避ける余裕がない場合が多い。
倒れてけいれんする発作は怪我の防止を第一に考えなければならない。駅の階段とかエスカレーターで転んだりすると、大きな怪我をする可能性がある。料理中にやけどしたり、窓ガラスに突っ込んで腕を切ったりすることもある。一般に怪我は擦り傷程度で軽い。多数の縫合が必要な大きな傷や骨折はまれである。しかし不思議なことには、一度怪我したことがある人は、それを繰り返す傾向があることである。したがって一度怪我したらまた起こるかもしれないから注意が必要である。
大怪我につながるような事故を防止するため次のような点に注意したい。
(1) 転倒する発作が頻回に起こる場合はヘルメット着用をお勧めする。帽子を加工したような簡単なものから、もっと頑丈なものまでたくさんある。もっとも本人は嫌がるので、なれさせるのには時間がかかる。
(2) 駅の階段は端を歩こう。駅のプラットホームでは電車から離れて立とう。私の経験では、駅のプラットホームに倒れた人はかなりいるが、路線に落ちた例はまだない。
(3) 家ではガス器具は避けよう。熱湯や油ものを使うのも極力避けよう。火傷は家庭の主婦では最も多い事故の一つである。しかも同じ人がまた同じ火傷を繰り返すことがよくあるので注意が必要である。
(4) お風呂はシャワーだけにするか、あるいは湯船に入れる湯量は腰ぐらいにしよう。私は過去40数年間で入浴中の溺死を数例見てきた。不思議なことには、発作頻度が比較的少ない人に事故が発生しやすいということである。発作が毎日起こる人では、常日頃注意しているが、発作が少ない人では、油断しているからかもしれない。
(5) 寝る時は仰向けに寝よう。枕は硬いものにしよう。うつぶせに寝ていると、発作を起こしたあと、枕が口をふさいで、呼吸回復が困難になることがある。てんかん患者が夜間睡眠中に突然死することが極めてまれにあるが、私は過去数例経験がある。その状況から判断すると睡眠中に発作があり、枕が口をふさいでいたと推定される例が多い。
(6) 発作があったら家族は、できるだけ状況を確認し安全を確かめた方がよい。しかし重大な事故につながるような怪我は極めて少ないので、過剰な心配は無用である。
(7) 家族がけいれん発作に直面したら、まず頭の下に手をさしのべて、頭が繰り返し床に打ち付けない様にする。そして発作が終わるのを待つ。発作中には舌をかまないようにと口に物を入れるのは無駄である。発作が終わったら、首を横にして嘔吐物を誤嚥するのを防ぐ。そして意識が自然に回復するのを待つ。発作が立て続けに2回以上起きない限りは、救急車を呼ぶ必要はない。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)