43.てんかんの原因、頭部外傷 (2006年10月号)

前回は先天性の脳血管奇形のお話をしました。その中で海綿状血管腫というものがあり、脳の血管がドグロを巻いたような小さな塊をつくり、それが付近の神経細胞を圧迫し、てんかん発作の焦点となることがある。これは破けることはほとんどない。もっと大きな天性性奇形に脳動静脈奇形がある。これは破れてくも膜下出血や脳内出血を起こしたりするのでやっかいである。

動脈壁が風船のように膨れ上がる動脈瘤はてんかんの原因になることはまずないが、破れてくも膜下出血を起こすことが多い。くも膜下出血は急激な頭痛、吐き気と意識障害をきたす重大な病気で脳の広範囲に障害を引き起こし、後にてんかん発作の原因ともなることもある。早急に外科治療必要である。

今回は頭部外傷の話しをしましょう。大きな外傷は当然脳に損傷を引き起こすのでそれが原因となっててんかん発作を起こすことがある。てんかん患者さんの病歴を聞いていくと、幼少時に頭を打ったとことがあるというケースは大変多い。しかしそれが現在のてんかん発作の原因となっているかどうかはきわめて疑わしい。子供がブランコから落っこちたとか、窓から落ちて思い切り頭を打った、赤ちゃんを抱っこしていてまちがって床に落としたなど、例を挙げればきりがない。おそらく頭を打ったことがない人の方がはるかに少ないのではないかと思われる。

脳に傷ができるほど大きな怪我には特徴がある。怪我のあとの意識障害の有無がそれである。怪我したあとに「大声で泣いた」いうのは意識障害がほとんどないか、あっても軽微な証拠である。したがってこれが原因となって通常脳に傷がついたとは考えられない。怪我したあと意識が数時間戻らなかったようなケースでは脳に傷がついた可能性がある。

重篤な脳の外傷は通常意識障害が長引く。数日間あるいは1ヶ月以上意識が戻らない場合は脳に傷ができたと判断される。外傷後のてんかん発症の確率は意識障害の長さに比例して増加する傾向にある。

意識障害の次に重要な所見は開放性外傷か、閉鎖性外傷かということである。開放性というのは頭蓋骨が破れて脳が直接外から見れる状態をいい、閉鎖性とは頭蓋骨がしっかりしていて脳が直接見えない状態を言う。開放性外傷の方が、はるかにてんかん発症の確率が高く、その出現率は20-50%である。閉鎖性の場合はせいぜい数%程度である。

次に重要なのは外傷直後に痙攣発作があったかどうかである。外傷直後はまだ脳へのダメージが回復せず、混乱状態にある。この際痙攣発作が出現してもおかしくはない。これを早期痙攣とよび、てんかんとは一応区別する。早期痙攣があったとしてもその後発作が繰り返して起こるとは限らない。その後発作がまったく起きない場合もたくさんある。

外傷性てんかん発作は外傷後2年以内に出現することが多い。その後は発作の確率は次第に減少してくるので、たとえば受傷後10年で初めて出現した発作は、それが外傷に起源したとは考えにくい。このように考えると、問題の発作が外傷と関連しているかどうかの判断は意外と難しいのである。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする