21.反射てんかん、その3.複雑な精神活動で誘発される特殊なてんかんについて(2004年12月号)

「本を読むと発作が起こる」という奇妙なてんかんがある。本を読んでいるうちに、次第に顎、舌のビクビクするミオクロニー発作が出現し、短時間の意識喪失を繰り返しているうちに、ついに大発作を起こす例です。これは「読書てんかん」と命名されています。多くは家族性(遺伝性)で、その際これを「原発性読書てんかん」といいます。この「読書てんかん」はきわめて稀で、特殊なてんかんであり、一般のてんかん患者さんでは本を読むことで発作が起こることはまずありません。

このように稀なてんかんではありますがその発作の引き金となる「読書」という行為がどうして発作の引き金になっているかという点に世の注目が集められています。

フェルスターは11症例の読書てんかんを報告した。このうち7症例はてんかんの遺伝歴を有しており、そのうちの4家系では「読書てんかん」の遺伝歴を有していた。

彼は読書という誘発因子を詳しく分析した結果、「何か新しい意味のある文章」を読む事が重要であって、慣れ親しんだ文章(例えば聖書)や無意味な文章(例えば知らない外国語や数字など)を読んでも発作は起こらないことを見出した。発作を起こす場合は、本を縦にして読んでも、横にして読んでも発作を起こした。声を出して呼んでも(音読)、声を出さずに読んでも(黙読)でも変わりなく、本の内容を録音し、それを聞かせても発作は起こらなかった。この現象は単純な音または視覚刺激だけでは説明しがたく、「読んでその意味を理解する事」が発作の引き金として重要であると考えた。「本を読んでそれを理解する」という精神作用が発作を起こすのである。

また「数学てんかん」と呼ばれているてんかんがある。イングバールは27-17とか6×11などの計算をさせることにより、3Hzの棘徐波複合を示す欠神発作の例を報告した。この異常波は注意を集中して計算することによって起き、きわめて簡単な計算やごまかしなどによっては誘発されなかった。幾何学的思考や読書、緊張だけでも発作は起こらなかった。「気持ちを集中して計算する」という精神作業が誘引となって発作を起こすものである。 これも極めて稀なてんかんで、通常のてんかんではこのようなことは起こらない。

上記に述べた「読書てんかん」や「数学てんかん」はいずれも「興味をもって精神を集中し」、「そして理解する」という精神活動が発作の引き金になっている。これらは特殊でかつ稀なてんかんであるが、一般のてんかんでも該当するのだろうかという疑問が起こる。

一般には精神緊張はむしろ発作を抑圧するように作用し、緊張から解放され、ヤレヤレと思った瞬間に発作が起こる事が多い。精神集中はむしろ発作を抑制させるのである。

しかし脳波検査をすると、特に全般性の脳波異常(特発性全般てんかんに見られる)などは精神作業で増悪する事があるのもまた事実である。脳波を記録しながら計算させたり心理テストなどを行うと発作波が増すことがある。

脳波上では精神賦活が脳波異常を悪化させることは確かにあるが、実際に発作が悪化したという例はあまりない。

てんかん患者には「あまり無理させるな」、「勉強・運動のやりすぎに注意」、などという言葉があるが、あまり神経過敏になる必要はないものと考える。しかし過労・精神緊張などによる「寝不足」は確かに発作を誘発させる事があるので、注意したほうがよい。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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