173 てんかんを持つ遺伝性疾患で外国にはほとんどないが日本人に限って多い疾患(BAFME)の遺伝子が同定された――遂に病因が明らかにされた画期的発見――(2019年2月号)

BAFMEは良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんといい、かつてこの「ともしび」に載せたことがある(第114号―2012.9月)。
 
この病気は次のような症状をもつ。

(1)手先が震える。特に緊張した場面などで、手が震えるので冠婚葬祭で名前を書くときに困る。またお茶やお酒を飲むときに持った茶碗が震えるので周りの人がおかしいと気づくこともある。長年にわたって少しづつ悪化するが、その進行は遅く、通常認知機能も侵されないので、「良性」という言葉がついている。

(2)てんかんは軽い場合は手がピクピクするだけのミオクロニー発作であるが、強い場合は倒れ、全身が痙攣する大発作も起こることがある。大きなけいれん発作は数年に1回の頻度でしか起こらない。

(3)遺伝性がある。優性遺伝で病気の親からは約半数の確率で子供が同じ病気になる。しかしその子が発病するかどうかは大人になってみないと分らない。

(4)チラチラする光の点滅に過敏である。街路樹の木漏れ日や、光がきらめく水面や海面は苦手である。脳波検査で光刺激という検査があるが、この光刺激で脳波に発作波が誘発されるので診断がつくこともある。

この疾患はどういうわけか、外国にはきわめて少なく、日本に多い病気である。2013年8月11日から3か月間、私が直接診察したてんかん患者は1243例であるが、そのうち本疾患は16例であり、てんかん患者の1.2%に当たる。決して珍しい病気ではない。

例を述べる。50歳代の女性、40歳から手の震えに気づき、54歳でけいれん発作があった。光がまぶしく、ビクンビクンとするミオクロニー発作が誘発され、脳波に特徴的な異常がみられた。同胞7人中5人が同じ症状を呈しており、父親は9人の同胞がおり3人が発症していた。この症例を私はもう30年以上経過観察しているが、子供3人おり、3人ともが発病した。いずれも発作の回数は少なく、認知症のような症状はない。頭もしっかりしている。

この疾患の遺伝子検索は1990年代から始まり、大きな家系での連鎖解析により染色体第8染色体の長腕にあるということが分かっていたが(Mikami ら1999)、この領域のすべての遺伝情報を含む場所(エキソンの塩基配列)を調べたが異常は発見されておらず、謎に包まれた疾患であった(石井、2018)。
ここで説明しておくが、一個の受精卵から細胞が分裂して人間の胎児が出来上がるわけだが、それには遺伝子の中にある設計図が必要で、その設計図に沿って蛋白質が合成され、新たな細胞ができる。この設計図は遺伝子の中のエキソンという塩基配列にある。

ところが今回発表された本疾患の遺伝子の異常は、たんぱく質を作らないイントロンと呼ばれる塩基配列にあった。ここに過剰な塩基配列が繰り返して出現し、その繰り返し配列の長さが病気の原因だということが分かった。これは画期的な発見である。このように遺伝子に塩基配列が繰り返して出現する病気をトリプレット・リピートといい、変性性神経疾患(脊髄小脳変性症など)に共通の遺伝子異常である。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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