睡眠不足は発作を誘発する。仕事や遊びなどで夜遅くまで起きていると翌朝発作が起こりやすくなる。特に特発性全般発作がそうである。常日頃脳波に異常が出にくいてんかん患者でも、寝不足後に脳波をとると、てんかん性発作波が出現する場合が多い。これを利用した、「断眠賦活」という方法がある。24時間眠らせないで、あるいは極端に睡眠不足させておき、その後覚醒時と睡眠時の脳波を記録する方法である。このような方法で脳波の異常を検出した1例を示そう。
症例は30歳代後半の男。21歳の時海で魚釣りしていて発作を起こし水中に転落した。4か月後再び魚釣りしていたとき、同様な発作を起こし水中に転落した。いずれも友人の助けで事なきを得たが、2度目の転落で嚥下性肺炎を起こした。30歳の時また釣りしていて発作を起こし、水中に転落した。何とか助かったが肩を脱臼した。
この時の状況は次のようであった。すなわち釣りの前夜、夜10時ごろ車で家を出て翌朝5時に海に到着した。30分ぐらい仮眠をとり釣りを始めた。じっと浮きを眺めていたがその後の記憶がない。これらの3回の発作はいずれも徹夜に近い極端な寝不足の後で起きた発作である。22歳時の受診し、その後数年間に7回の脳波検査をしたが、てんかん波は検出されなかった。それで25歳の時、24時間の「断眠賦活脳波検査」を行うことにした。前日眠らないで病院に着てもらい、午前2時ごろから脳波を記録した。その結果午前4時ごろから、脳波に突発性のてんかん波が出現し、午前6時には10分間の間に19回もの突発性てんかん波が検出された。本症例は寝不足で誘発された特発性全般てんかんと診断された。釣りを辞め寝不足を避けたらその後発作はない。
てんかんで断眠賦活した研究がある。金沢大学の佐野譲らはてんかん患者40人に20-24時間の覚醒を維持させ、その前後に終夜睡眠ポリグラフ比較した。その結果、40人中26人(65%)が断眠により脳波異常が増悪した。全汎性痙攣発作群が最も賦活されやすかったという。特に全般性のてんかん発作波である棘・徐波結合が80%と最も多く賦活されたと述べている。彼らは結論として断眠賦活法は異常波検出のための有効な生理学的方法であるが,その効果は個人差に大きく、診断学の立場よりもむしろ,その患者が睡眠不足に敏感であるか否かを判断するのに役に立つと述べている。
また睡眠障害には入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などがあり、夜間よく眠れないと、いらいら感、集中困難、気力低下などの精神面への影響や易疲労感、頭痛、筋肉痛、胃腸の不調など身体的悪影響が起こりうるので、健康に良くない。十分な睡眠はてんかん発作にも悪影響があるが、広く精神・身体症状にも悪影響をもたらす。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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