前回は神経皮膚症候群の一つ、結節性硬化症について述べた。今回はスタージ・ウエバー症候群について述べよう。これも神経皮膚症候群の一つで、きわめて特徴的な症状を持っているので、一見してすぐわかる。それは顔面の一側に大きな血管腫があることです。ポートワインに似た赤色に盛り上がった血管腫で、毛細血管の奇形です。一側の額、眼瞼、頬の顔の上半分を占める。正確にいうと顔の三叉神経第1,2枝がカバーする領域に出現する。これと同じ血管腫が、同じ側の脳、特に頭頂部と後頭部を覆う脳髄膜にできる。細い静脈は拡張し、そして萎縮し、皮質の石灰沈着がおこる。
同側の目に緑内障や眼球が外に飛び出すような(牛眼)眼症状を呈することもある。
痙攣は生後6ヶ月頃から始まることが多く、概して難治性である。けいれんは部分痙攣で、時に痙攣重積になることもある。痙攣が難治であれば、精神発達の遅れがみられることが多い。
症例をしめす。患者は20歳台の女性精神遅滞、自閉症、てんかんがある。
生来知的障害あり、養護学校中等部卒、左顔面に大きな赤・褐色の母斑があり、4歳時植皮手術を受けた。その頃、熱性けいれんがあった。10才時にてんかん発作が発症した。朝8時ごろ学校に行こうとして倒れた。くるくる回って倒れ泡を吹いたという。同じような発作が年に1-2回あった。
15歳ごろから、意識減損の発作が始まった。一点凝視し、呼名に反応せずボーとしてよだれを流す、20秒前後の短い発作である。倒れない。その頻度は月に2-3回。抗てんかん薬にて発作年に1回と減少した。こだわりがあり物の置き場所、カバンの位置、洗濯物など順序立ててチェックする。学校からの帰りに道草を食う。お金がたりないのに余計なお菓子を注文して警察の厄介になったことがある。現在福祉施設に入所中。脳波に左前頭・側頭部小さな棘波がある。
MRI異常なし、CT:単純造影で異常なし。石灰化もない。しかし造影で脳の軟膜に血管腫が証明された。この症例は脳に石灰化がないことから、本疾患の症状がすべてそろっているとはいえず、このような症例を不完全型と呼ぶ。すべての症状が揃っているのが完全型と呼ばれる。
本症例は本疾患の中核症状である顔の血管腫があり、知的障害、てんかん発作を持つ。発作は意識減損のみの側頭葉てんかんで、左側頭葉起源と思われた。こだわりはあるものの人懐っこい穏やかな性格で、他人に迷惑をかけないので皆に愛されている。
本疾患の治療は発作の抑制にあり、薬物療法が基本である。発作が頻繁にあり、コントロール困難な痙攣に対しては、早期に大脳半球切除術を行う場合がある。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)