前回までは代謝性疾患について述べた。代謝性疾患とは体の中の新陳代謝がおかしくなる病気である。肝機機能、腎機能障害、ホルモンなどの異常などがそれで、体のバランスが崩れ、時にけいれん発作を起こすことがある。これらの例として低カルシウム血症、低ナトリウム血症(水中毒)、高アンモニア血症などがあり、これらについてすでに述べた。
次に薬物・中毒性疾患について述べる。代表的なものとして抗精神病薬や覚せい剤、麻薬、脱法ハーブ、アルコール依存症などがある。これらも時にてんかん発作を起こすことがあるので、初めて発作を起こした場合にはこれらに疾患を鑑別しなければならない。
これらの代謝性、中毒性疾患によるてんかん発作はもとにある病気が治れば、発作が再発することはほとんどないがないので、通常抗てんかん薬は必要ない。しかしもとにある病気が治らなくて発作を繰り返す場合もあり、その際には抗てんかん薬も必要になってくるだろう。
今回は薬物中毒について述べよう。脱法ハーブ中毒の1例である。
30歳台の男。ある朝、起きて間もなく、うーと叫び、四肢を激しく動かし、両膝立ちで大声をあげ、不穏著しい。約30分続いた。救急車で病院に行き、注射にて意識を取り戻す。しかしぼんやり状態は約2時間続いた。その後同じ発作症状が1週間以内に計3回出現したので、てんかんを疑われ当院を紹介された。症状から通常のてんかん発作と異なるので、背景に何か別の病気が隠されているのではないかと疑問を持った。通常のてんかん発作と異なる点は1週間に3回と初発てんかんとしては多すぎる。また、意識障害、もうろう状態が2時間以上と長すぎる点である。普通のてんかん発作は重積発作でない限り、短時間で意識が回復する。しかも初めてのてんかん発作であれば、それが重積発作でないかぎり短期間に3回も起こることはまずない。
よく状況を聞いてみると、脱法ハーブの喫煙を年に1回ぐらいやっていたという。ハーブ薬を紙に巻いてパイプで吸っていたのだという。発作の前日もハーブを吸い、その翌日ももう1回すったという。その後急性錯乱状態となったものと考えられた。
脱法ハーブとは合成カンナビノイドを含有する人口ハーブ製品で、大麻の薬理成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)の効果を模倣し手作られた香草である。法律で取り締まるのが難しい。
症状は頻脈、興奮、易刺激性、悪心嘔吐、幻覚妄想などがあり、重篤な場合はけいれん、意識障害、呼吸困難などの症状を引き起こす。
厚生労働省は薬事法の取り締まり対象とする「指定薬物」制度をスタートさせているが、主成分(合成カンナビノイド)の化学式を一部だけ変えた「新製品」が後を絶たず、規制とのいたちごっこが続いている。脱法ハーブは危ない。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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