128.発作の裏にある脳の病気:その17 脳炎・脳膜炎(特に辺縁系脳炎)について(2013年11月号)

前回は細菌性脳炎・脳膜炎について話した。特に幼少時に発病する髄膜炎菌という細菌による脳炎はすぐに重篤化しやすく、死亡率も高い。早期に治療が必要で、手遅れになると死亡すること場合が多い。急激な発熱、頭痛、嘔吐などが最初の兆候で、さらに意識障害、痙攣などが続く。最初はカゼの症状との区別がむずかしいため、病気の発見がおくれやすい。

これらの脳炎・脳膜炎は後に成人になってからてんかん発作の原因になることも多い。大人のてんかん患者さんに昔の病歴を聞くと、子供のころ脳炎・脳膜炎を患ったことがあると答える方も多い。これらは皆、成人期のてんかん発作の原因となりうる。

今回は辺縁系脳炎について話そう。この病気は脳炎の1つのタイプで最近、神経学会、てんかん学会などで話題になってきている。昔からあったがその原因が最近ようやく分かってきた。この病気はてんかん発作で始まることが多い。普通のてんかんは、発作が治まれば普通の正常な状態に戻るが、この辺縁系脳炎ではさらに精神症状を伴ってくる場合が多い。行動異常、思考滅裂、興奮状態、幻覚、幻臭、せん妄、記憶障害、性欲亢進、持続覚醒などである。これらの症状は皆、脳の辺縁系の症状である。

脳の辺縁系とは大脳にすっぽりと覆われている脳の深い部位にあり、人間の感情(喜怒哀楽)、記憶、食欲、性欲などをつかさどるもっとも古い脳の一部である。ここがやられると記憶障害、見当識障害(今日が何日か、今どこにいるのか、今自分は何をしているのか、妻や子供の顔が認識出来ないなど)などの症状が急激(または亜急性)に現れる。したがって認知症などと間違われることがある。症状はさらに興奮(騒ぐ、わめくなど)、異常行動(急に走りだす、うろつきまわる、2階からとび降りようとするなど)が起こり、病院に入院させ保護が必要になる。

原因は「自己免疫性」が関与する現象で、自分に備わっている本来の免疫系が「外部から侵入した敵」と誤って自分自身を攻撃するのである。

そのきっかけは癌(卵巣奇形腫、小細胞性肺癌など)を持っている人、慢性甲状腺炎を持っている人、感染や予防接種後)などに見られる「非ヘルペス性急性辺縁系脳炎」と言われている病気がそれである。

例をあげよう。

50歳代の男性、ある日突然、意識が減損するてんかん発作(複雑部分発作)が数回あり、最後は全身のけいれんがあった。2週間後から記憶障害、見当識障害がみられるようになった。約1か月後はもうろう状態になった。

最近この患者の脳波を見る機会があり、それには全般性で持続的な徐波の連続があり、高度な脳機能の障害が示唆された。精密検査の結果、肺癌が見つかり、これによる傍腫瘍性脳炎(肺癌に続発する脳症)と診断された。

てんかんにも、背景にこのような脳疾患が隠れていることがあり、注意が必要である。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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