125.発作の裏にある脳の病気:その14 ハンチントン舞踏病(2013年8月号)

前々回は「発作性運動誘発舞踏アテトーゼ(PKC)」について述べた。舞踏病という奇妙なダンスを踊るような症状が発作的に来る病気である。予期せぬ突然の動きによって発作が誘発されることが多く、1分前後で終わる短い発作である。発作間歇時は普通の人と変わらない。しばしば抗てんかん薬が功を奏するので、てんかん発作と考えられてきた。

今回は本物の「舞踏病」について述べる。これは遺伝性の変性疾患であり、踊る様な不随運動が出現し、10年以上という長い経過をとって次第に進行する病気である。「発作性運動誘発舞踏アテトーゼ(PKC)」のような発作はない。

この病気はアメリカの医師ハンチントンによって最初に記載されたので「ハンチントン舞踏病」ともいう。多くは40歳以降に発症する。その発症率は人種により異なるが白人では10万人に5-10人、日本人ではその数10分の1と少ない。私は過去50年の医師として診療に従事してきたが、いままで1例しか見たことがない。

一方舞踏病様の不随運動を呈する神経疾患はかなり多い。脳性小児麻痺の一部やまたてんかん患者でも、多量の薬物を使っている方にも一過性にこのような不随運動が起こることがある。てんかんや脳性小児まひなどでみられる舞踏病様不随運動は、厳密には震顫、アテトーゼ、ジストニーなどと呼ばれる他の不随運動も混じっていることが多く、純粋な舞踏病ではない。

「ハンチントン舞踏病」の初期症状は、顔の歪み、引きつるような不規則で素早い不随運動が特徴的である。顔をしかめたり、肩をすくめたり、手首を捏ねるような動きが多い。精神的に緊張すると出やすい。したがって精神的なストレスなどによる例えばチック症などと間違われることも多い。

年単位で悪化し、やがて全身に広がり、体全体が捻じれるような動きも加わってくる。歩行が困難となり、しばしば転倒し、起立もできなくなる。慢性進行性の病気で、治療方法はない。

ハンチントン舞踏病は遺伝性疾患で、責任遺伝子は第4染色体短腕上にあることが分った。常染色体優性遺伝で親が本疾患であるとすれば子供の約半数は同じ病気になる。親から子へと世代が代わるごとに発病年令が低くなり、病状も重くなる。病状が進行すると精神症状も出てくる。いらつき、執着、性格変化、物忘れなどが明らかとなる。

大脳の深部にある錐体外路というが場所が萎縮し変性する病気で、特に基底核の尾状核と被殻、および大脳皮質に著明な萎縮(いしゅく)がみられる。この部にガンマ・アミノ酪酸という物質が著しく減少していることが分ってきた。治療は今の時点では無いが、将来、遺伝子治療が可能になるかもしれない。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする