これまで進行性ミオクロ―ヌスてんかんといわれる一連の疾患について述べてきた。この疾患は発作の背景に進行性の脳の病気があり、てんかん発作のみならず、ふらつきなどの歩行障害や認知障害も出てくる可能性がある病気である。比較的まれな特殊なてんかんで、原因は遺伝子の異常にある。したがって同一家系内に同じ病気が出で来ることもある。
この群に属する病気にDRPLA,、ウンベリヒト・ルンドボルグ病(U-L病)、がありこれについてはすでに述べた。
今回はミトコンドリア脳筋症の話をしよう。この疾患もかなりまれであり、私はこの50年間に1例を経験したのみである。
私が経験したミトコンドリア脳筋症は初診時20歳代の女性である。手足が軽くピクン・ピクンと動くミオクロニー発作がほとんど毎日、朝にあり、それに年に1回ぐらいの全身のけいれん発作があった。症状から見て若年ミオクロニーてんかんに似ているので、治りやすい予後良好なてんかんと思った。
なお若年ミオクロニーてんかんは脳に進行性の病気はなく、最も治りやすいてんかん群の1つである。
しかしこの症例はその後数年間、発作は改善されず、むしろふらつきや難聴などの神経症状が出現したので、単純なてんかんではなく、背景になにか進行性の脳病変を持っていると考え、さらに精査した。
脳波では光刺激で著しい光過敏性を示し、体性感覚誘発電位検査で巨大な誘発電位が見いだされた。光過敏性はある種のてんかん患者(「ポケモン」誘発てんかんなど)にみられることはあるが、体性感覚誘発電位で巨大な反応が出ることはない。巨大な反応は進行性ミオクローヌスてんかんによく見られる所見である。
ここで簡単に体性感覚誘発電位について説明しよう。手首に軽い電気刺激を与え、それが脳に伝わると脳の感覚領野に微小な電気反応が生ずる。通常その反応は非常に小さく5-10マイクロボルト程度であるが、進行性ミオクローヌスてんかんでは、それが巨大化し正常者の5-10倍以上になる。つまり手に与えられた電気刺激に敏感になっているという証拠である。
通常のてんかんではこれが巨大化することはないが、進行性ミオクローヌスてんかんではこれが巨大化するので、その鑑別に役立つ。
先ほど述べた私の症例では、その後遺伝子検索の結果ミトコンドリアに遺伝子の異常が見いだされた。さらに筋生検の結果特徴的な所見が得られたのでミトコンドリア脳筋症と診断された。
なお参考までに述べるが、ミトコンドリアはすべての細胞に含まれている微小な粒子で、細胞のエネルギー代謝をつかさどり、脳や筋肉に多く含まれている。
これは母親由来の組織で、したがってこの病気は母親から伝わったものである。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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