前回は偽発作の症状の主なものについて述べました。「偽発作」はてんかん発作に似ているが、本当のてんかんの発作ではなく、身体的な原因がない発作を言います。多くはストレスなどによる心理的・精神的な症状で、例えば(1)健忘、(2)遁走、(3)混迷などがあります。これらについて前回説明しました。健忘は記憶を失うことで、てんかんでは発作中の記憶は喪失するのはあたりまえですが、てんかんでない偽発作でも記憶が突然無くなることもあるので鑑別が必要です。遁走は家出など突然いなくなる現象で、これもまたてんかん発作と間違われることがあります。混迷は急にぼんやりすることで、恍惚状態になったりします。これがてんかん発作と極めてよく似ておりてんかんと間違われることも多い。
今回はてんかんと間違えられる偽発作として、上記以外の症状についてもう少し述べたいとおもいます。
てんかんの大発作に極めてよく似た、 (4)全身の硬直が起こることがあります。全身を突っ張って後弓反張(背中を弓なりに伸ばす)ことがあればこれは偽発作です。頭や体を前後あるいは左右に激しく振るなどがあればこれも偽発作です。(5)突然の知覚過敏や盲目、視野狭窄などの多くもまた偽発作で見られます。(6)自律神経症状(めまい、動悸、震顫、失神、発汗、過呼吸、息ごらえ発作など)の多くがまた偽発作でもあります。
以上(1)から(6)までが、偽発作の代表例です。なお、偽発作から話題が少しそれますが、身体的な原因でてんかん発作と紛らわしい発作が起こることもあります。その代表的な例は「失神発作」でしょう。この失神発作は比較的若い女性に多いのですが、起立性低血圧などによって脳貧血を起こすことによって意識を失う現象です。軽い場合は「立ちくらみ」や「めまい」だけで終わってしまいますが、重い場合は意識を失って倒れるので、てんかん発作と間違われることがあります。しかし失神発作の場合は前兆として、「目の前が一瞬真っ暗になる」とか「体が沈んでいく感じ」を訴え、「しゃがみこむ」ことが多く、てんかんとは区別がつきます。てんかん発作ではこのような前兆はほとんどありません。
以上述べたように偽発作も、失神も、本物のてんかん発作に似るので、間違って、てんかんとして治療されることがあります。時には多量の抗てんかん薬が投与され、ひどい副作用を呈している患者さんもおります。
てんかん発作と偽発作を見分けるには、もちろん脳波が役に立ちます。脳波は覚醒時のみならず睡眠時にも記録する必要があります。覚醒時にはまったく異常がないのに、睡眠に入ると、てんかん性異常波が多発することがよくありますので注意が必要です。しかし脳波検査を過大に信用してはいけません。なぜなら健康正常者にも数%の頻度で脳波に異常が出現しますし、またてんかん患者でも脳波に異常がまったく出ないことがよくあるからです。てんかんとして間違って治療されてきた偽発作の例をみると、脳波に異常が出ているケースがかなりあります。
つまり脳波に異常が出ているため、偽発作をてんかん発作と間違えてしまうケースがあるということです。やはり発作症状をよく検討して、それがてんかん発作として矛盾しないということを確認する必要があります。疑わしい場合は迷わず専門家に相談しましょう。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
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