121.発作の裏にある脳の病気:その10 脳腫瘍とてんかんについて(2013年4月号)

脳腫瘍は脳にできた腫瘤・こぶである。脳のどこにでも起こりうる。長年の経過でゆっくりと大きくなるものもあるし、急速に大きくなる悪性のものもある。

脳腫瘍が大きくなると脳が圧迫されて脳圧が高くなり、そのため頭痛、吐き気、めまい、ふらつきなどの症状が起こる。放置しておくと意識が侵され、昏睡状態となる。こうなると命が危ない。脳圧が高まると眼底にうっ血乳頭が生ずるので、眼底鏡で目の奥をみれば脳圧が高くなっているかどうかがすぐにわかる。最近はCT,MRIなどの画像検査で、眼底を見なくても脳圧亢進はが診断できるようになった。したがって最近は眼科医以外は眼底鏡を使う医者は少なくなった。昔の神経科医はいつも眼底鏡を持ち歩き、特に意識障害患者等を見る際は、脳圧が高まっていないかどうかに注意を払っていたものである。

脳圧亢進の症状は脳全体が急速に圧迫されて出てくる症状でふらつきや意識障害が主であるが、脳圧が高まらずに腫瘍のある部位の神経症状が出てくることも多い。手足の麻痺やしびれなどがあり、またてんかん発作もその1つである。

初めててんかん発作を起こした場合、くわしく調べると脳腫瘍が原因と分かる場合がある。しかし脳腫瘍が原因でてんかん発作を起こす例はそんなに多くない。全てんかん患者の脳腫瘍の合併はほぼ1%前後である。しかしこれは患者の年齢で異なる。小児では少なく成人では多い。30歳台を超えて起こる遅発性てんかんの4-16%が脳腫瘍を持つといわれえている。したがって、成人・高齢者のてんかん患者を見たら脳腫瘍の可能性も考えるべきである。

脳腫瘍の発作は単純部分発作から二次性全般化する発作で、基本的には部分てんかんである。したがって最初から全般化する全般てんかんでは脳腫瘍の可能性は低い。

脳腫瘍の場所によっては、てんかん発作の起こる確率が違う。脳の前頭葉、特に運動領野に病巣ある場合はてんかん発作を起こしやすいが、脳内深部や小脳の腫湯ではてんかん発作が起こることは少ない。また進行が極めて遅い、星状膠細胞腫・乏突起神経膠腫、神経膠腫などではてんかん発症合併率は70%に上る。転移性脳腫瘍は悪性度が高く、発作発現率は低い(20%)発作症状が嗅覚発作は腫瘍の場合が多いので注意が必要である。

例を示そう。

15歳男性、4-5歳のころから夜間睡眠中に右上肢から始まるけいれん発作があり、その頻度は月1回で、難治に経過した。ある日突然激しい頭痛、嘔吐に見舞われ救急車である大学病院に運ばれた。そこでCTにより、水頭症が発見された。

精査したところ松果体腫瘍が発見された。松果体は脳の深い中心部にあり、脳脊髄液の通過をせき止め、容易に水頭症を発症する。この腫瘍はこれまでのてんかん発作とは関係のない偶然発症した脳腫瘍である可能性が高いと判断された。脳腫瘍にもこんなのがあるとは驚きであった。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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