前回は親と子の関係について考えました。てんかんの子を持つ親の悩みと心配は深刻ですが、病気である子供自身はそれほど深刻に感じていない場合が多く、親の心配を無視して、あるいはそれに反発して大胆な行動をとることがあります。
その結果、親の心配の材料がますます増えることとなります。この親と子の関係は時にはギクシャクして、強い緊張と葛藤を生むことがあります。そういう観点から親・子関係を見ると、それはいつまでも交わらない平行線ともいえるでしょう。 親はいつか腹をくくって覚悟を決める必要があるかもしれません。 諺に「身を捨てこそ浮かぶ瀬もあれ」という話があります。川でおぼれそうになってもがいている人が、覚悟を決めてもがくのを止めたら、実は川底は浅くて背が届く深さであったという意味です。親の深刻な心配や不安は実はさほど心配するほどのことでもなかったことはよくあることです。 てんかんの子供を持つ親御さん、将来はどうにかなるものです。あまり心配しすぎないようにしましょう。
さて今回は医師と患者との関係について考えてみましょう。医師と患者が互いに信頼しあってよい関係を築くことは非常に大切です。それには双方が努力して信頼を勝ち取っていく必要があります。
1.医師・患者の良い信頼関係は双方の共同作業である。
私は「患者の信頼が得られなければそれは自分の負け」という風に理解しています。信頼が得られるかどうかは出会いの最初の3分が重要なようです。言葉以外にも態度、目つき、振る舞いなどから患者はこの医師が信頼できるかどうか、直感的に読み取ります。医師はまた患者の多彩な訴えのうち、何が重要であるかを考え、必要であれば患者の心に「無理やりに侵入」して重要な情報を引き出そうとします。しかし患者側ではこれを嫌がる場合もあります。治療者は患者さんが何を嫌がっているか、患者さんは治療者が何を聞きたがっているのか理解することが大切です。そのようなやり取りを通して信頼関係が生まれるのです。いったん信頼関係が出来ると大変治療がしやすいし、難しい患者もすっかりいい子になりうるのです。
2.あいまいな訴えと要領が悪く時間がかかるのを医師は嫌がります。
治療者が一番嫌がることは、あいまいな訴えが多く、何が重要で何が重要でないかよくわからず、ただむやみに時間が過ぎることです。今度医師にあったときには自分の症状をしっかりと把握して要領よく話をするように努力しましょう。そしてどういう風にしてほしいのか、自分で自分の考えをまとめておいていただければ大変助かります。治療を受ける側も勉強して、良い患者さんになることが良い信頼関係の始まりです。
3.医師・患者関係がうまく行かないこともまた現実である。
しかし実際には信頼関係を作れない場合があるのもまた現実です。説明に納得が得られない場合は、セカンドオピニオンとして、他の医師に相談することも正しい選択肢の一つでしょう。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
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