前回は進行性ミオクローヌスてんかんについて述べた。この病気は遺伝性であり、重症となることが多い。この中で最も多いのがDRPLAと呼ばれる疾患である。決して多い病気ではなく、てんかん患者2-3000人に1人ぐらいしかいない稀な病気である。どういうわけか日本人に多く外国人に少ない。脳に進行性の病変があるので、歩行障害や言語障害、記憶障害、認知障害などが起こり、重い場合は寝たきりになる。
同じような遺伝性てんかんで、DRPLAとは対照的にきわめて軽い病気がある。30歳以上の成人になってから初めて発病するてんかんであり、BAFME(良性成人型家族性ミオクロ―ヌスてんかん)と呼ばれる。この病気もどういうわけか比較的日本人に多い。外国人にはきわめて少ない。私は今現在、クリニックで約3000人程のてんかん患者を見ているが、その中に本疾患は約20例程いる。
この病気の特徴は次のような点である
1. 手先が震える。特に緊張した場面などで、手が震えるので冠婚葬祭で名前を書くときに困る。またお茶やお酒を飲むときに持った茶碗が震えるので周りの人がおかしいと気づくこともある。寝不足が震えを悪化させる。長年にわたって少しづつ悪化することがある。しかし決して寝たきり等にはならない。
2. てんかんは主に上肢がぴくつくミオクロニー発作とけいれん発作である。発作の直前に震えがひどくなることもあるので、発作が来るなと分かることもある。けいれん発作は数年に1回の頻度でしか起こらない。したがってあまり心配はする必要がない。
3. 遺伝性がある。優性遺伝で病気の親からは約半数の確率で子供が同じ病気になる。しかしその子が発病するかどうかは大人になってみないと分らない。
4. どういうわけか光に弱い。チラチラする光の点滅を見ていると体が震える。街路樹の木漏れ日や、光がきらめく水面や海面は苦手である。脳波検査で光刺激という検査があるが、この光刺激で脳波に発作波が誘発されるので診断がつくこともある。かつてポケモンで発作を起こした子供がいるが、この多くが光で誘発されたてんかんである。しかしBAFMEは成人のてんかんであるので小児のポケモン発作とは異なる。光を避けるためサングラスをかけることを勧めている。サングラスは光過敏性を防ぐ最良の方法である。
5. 最近家族の研究から遺伝子の座が分った。責任の場所は染色体8番の短椀(8q23.3-24.3)にあり、ヨーロッパとイタリーの家族からは染色体2番目の異常が報告されている。
本疾患は外国に比べはるかに日本人に多い疾患であるが、専門家でもまだよく知られていない病気でもある。つまりてんかん学の中ではまだ十分に市民権を得ているとは言い難い。
しかし近い将来てんかん医学の中で大きな話題になることは間違いない。
「成人期てんかんの特色」大沼 悌一
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