86.新薬 トピナ(2010年5月号)

昨年日本において発売された新薬トピナは一般名をトピラマートと言い、1995年に英国で、翌1996年には米国でも承認され、現在100ヵ国以上で承認されている薬です。日本では協和発酵が治験を手掛け、10年ほどの歳月をかけ遅ればせながらようやく承認された期待の新薬です。

「他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する抗てんかん薬との併用療法」の効能・効果で承認された。

新薬トピナは面白い薬である。発作のコントロールは期待通り十分な効果を見せるが、それ以外にも感情(気分)に影響を及ぼす可能性がある薬でもある。気分を安定させることもあるし、逆にうつ状態を引き出すこともある。

事例を紹介しよう。症例は、40代の男。 20歳のころから、夜の睡眠時にけいれん発作が起こるようになった。自分では気がつかないが、発作があると翌朝頭痛があり、口内を噛んでいるので夜間、発作があったのが分かる。また日中でも突然意識が途絶え、その場にそぐわない行動をとる複雑部分発作もあった。テグレトール、アレビアチン、エクセグランで発作がとまらず、その頻度は月数回に及んだ。脳波では両側の側頭部にてんかん性発作波を認め、側頭葉てんかんと判断された。トピナを100mgからはじめ、200mgと増量したところ月2-3回あった発作は完全に消失した。とくに副作用もない。トピナが著効を呈した症例である。

トピナでイラつきがおさまった例もある。症例を示そう。

症例は軽度の知的障害とてんかんを持つ40歳代の女性。

3歳のとき不明の脳症でけいれん発作が5時間続きその後右半身の麻痺と知的障害を残した。10歳のころより急にバタンと後方に倒れ体を硬直する発作が月数回出るようになった。また倒れないが、短時間意識を失うだけの発作も週数回みられるようになった。

最も困るのはイラつきが多く暴力をふるうことである。「私はどうせ馬鹿だから」、「20歳までで発作が治ると言われたがまだ治らない」、「そんなの信じたのが馬鹿だった」などと言って大声で荒れるのである。脳波で右側頭部に発作波を認め側頭葉てんかんと判断した。アレビアチン、テグレトール、デパケン、マイスタンなどの抗てんかん薬で改善しなかった。ところがトピナを400mg使用したところ、発作も半減し精神症状も著しく改善した。イラつかなくなり、頑固さが消えた。

またうつ症状が出現した症例を示す。

40歳第の女性、小学校低学年から「お腹から何かこみ上げてきて気持ちが悪くなり会話ができなくなる」発作が出現するようになった。さらに周りの景色が異様に感じ、方向感覚がなくなり、相手の話も理解できなくなる。そして意識を失う発作になる。しかし倒れることはない。

その頻度は毎週数回におよび、難治に経過した。脳波では右側頭部に発作波があり、側頭葉てんかんと診断された。トピナを50mgからはじめ100mgと増量したところ、発作はやや減少したが、うつ状態となった。

「元気が出ない」、「何も楽しみがなくなった」、「生きていても仕様がない」といって泣くことが多くなった。トピナを中止したら再び元気な姿になった。しかし発作は改善しなかった。

トピナを使用するときは精神症状にも配慮を要する。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

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