68.知っていますか、もうろう状態への対応(2008年11月号)

前回はてんかん発作への対応について述べた。そこでは発作によるケガの防止と不慮の事故の防止について述べた。今回はもうろう状態の対応について述べよう。

てんかん発作が起こると、それに引き続いてもうろう状態になることが多い。これを発作後もうろう状態という。もうろう状態が発作そのものである場合もある。これを発作性もうろう状態という。

もうろう状態となっている間、じっと動かずにおとなしくしている人もいれば、無意識に歩き回ったり、騒いだりする人もいる。あるいはもっと激しく物をつかんだり、目の前にある物を引っ張ったり、押しのけたりする人もいる。これを不用意に抑えつけようとすると激しく抵抗する。

発作後もうろう状態は、興奮した脳が一時的に疲弊状態に落ちっているために生ずる。意識は徐々に回復するが、しばらくはまともな会話は出来ない。自分が今どこにいて、何をしようとしているのかさえわからない。一般にこのもうろう状態はきわめて短いが、まれには長時間続く人もいる。

私の患者さんで次のような人がいた。発作は通常、年に2-3回程度であり、発作以外には健常人と変わりないので、会社勤めしていた。しかしあるとき会社で発作が起きた。発作後30分ほどあちこち歩き回り、ものにぶつかったりするので危険であった。会社の同僚が取り押さえようとすると、その手を払いのけるのである。このため彼は何回も会社を変えた。そして今は障害者枠で職業訓練校に入学し、職業訓練を受けている。

同じような例がある。40歳台のてんかん患者で、発作後もうろうとなり、ベッドの上に立ち上がったり、歩き回ったりするので危険であった。ある夜、同じような発作があり、若い看護士が対応した。患者はやむなく個室に収容され、ベッドに拘束された。彼が正気に戻ったときは手足がベットに縛られており、不自由な一夜を拘束されたまま過ごさなければならなかった。

ここでてんかん性もうろう状態への対応について話をしよう。

対応は「注意深く見守る」ことである。そして意識が回復するまで辛抱強く「待つ」ことである。

決して押さえつけてはいけない。押さえつければその手を振り払い、乱暴になるだろう。手に触れたものを握ろうとするかもしれないから、危険でないものを持たせるのもよい。握ったものを無理に取ったりしてはいけない。それを投げつけたり、振り回したりは決してしないから大丈夫だ。

周りにある危険なものは取り除いて、歩いても躓かないようにする。行く手に立ちはだかって行動を阻止してはいけない。目の前の邪魔者を払いのけたり押し倒したりするかもしれないからである。危険物に近づいたら、ゆっくりと手を差し伸べ、行く方向を転換させるのが良い。

部屋から外に出ないようにドアに鍵をかけるのも正解である。ただし介護者は部屋の中に一緒にいなければならない。介護者が行く手を邪魔しない限り、乱暴することはまずない。ドアを開けようとして、ドアのノブをガチガチいじるかもしれないが、腹を立ててドアをけるようなことはしないから大丈夫だ。

「こちらにおいで」、「大丈夫だ」とやさしく声をかけるのもよい。
「ダメだ」、「行くな」など命令しても聞いてはくれないだろう。

さてあなたが、もしこのような場面に遭遇したら、適切な介助が出来るかしら?

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)