軽い精神安定剤で不安や緊張を取り除く役目をもつ薬がある。抗不安薬という。デパス、セルシン、ワイパックス、コンスタン、ソラナックスなどが代表的な薬であり、それらのほとんどがベンゾヂアゼピン系の薬剤である。今ではその種類も沢山あるが、この種の薬で、はじめて世に出たのが「バランス」という薬で、それは50年も前のことである。不安を取り除いてくれるので、神経質な人はこぞってこれを服用した。しかしこれらの薬には依存性があるのである。不安が取れて、ほんわかといい気分になるので、常用してこの薬が手放せなくなる人が出てきた。薬が切れると、眠れなくなったりイライラしたりするのでどうにかしてこの薬を手に入れようとして、インターネットの闇市場などに出回るようになった。当局はこれを警戒して、30日以上の長期投与は現在では認められていない。
この種の薬から派生した抗てんかん薬にクロナゼパムがある。これはさほど依存性はなく、不安や緊張を取り除く作用も少ない。そして発作のタイプによっては優れた発作抑制効果があるので抗てんかん薬として90日以上の長期投与も認められている。
クロナゼパムはミオクローヌス発作や失立発作、強直発作等の点頭てんかん、ウエスト症候群、レンノックス症候群のような小児難治てんかんに効果を示す薬剤である。複雑部分発作などの側頭葉てんかんなどにも有効である。副作用の代表的なものは、眠気、ふらつき、無気力、不機嫌、興奮などである。
しかしこの薬は使い方がちょっとむずかしいのである。第1に慣れの現象が生じることが多い。最初は発作抑制に効果があったが、2ヶ月もすると慣れてきたのか、投与前の状態に戻ることがある。
第2に、稀ではあるが発作がむしろ増える場合がある。発作が強くなって、強直間代発作(大発作)が出たり、あるいは睡眠時に小さい強直発作が連続して出現することもある。この発作は眠っているときに急に目が開き、呼吸が荒くなり、肩を怒らす数秒の発作であるので微少発作と名づけられている。これは薬が誘発した発作であるので、むしろ薬が発作を悪くしたとも言える。
第3にこの薬を減量すると急に発作が増えることがある。したがって一旦使い始めたら、途中で減量するのが難しくなる場合があるのである。離脱発作といわれるもので、特に急激に減量すると危ない。減量する場合はきわめて少量づつ行わなければならない。
次のような症例に出会った。30台の男、レンノックス症候群で、強直発作、脱力発作が特に睡眠時に限って、週数回の頻度に起こる比較的難治なてんかん患者である。しかし日中は発作がなく、知的障害は軽いので一般就労も可能であった。本患者にクロナゼパムを使い、少量から増量したが、夜間の発作はむしろ悪化した。
それで本剤を減量したところ、夜間の強直発作がさらに増え、連続して起こるようになった。眠りに入ると、数分間隔で発作が連続して一晩中続くのである。発作のつど目が覚めるので、眠ることもできなくなった。薬を減らすことも、増やすこともできない最悪に状態になった。夜間の発作重積にもめげずに減量中止したところ、発作は減少し、元の元気な彼に戻った。
この薬の使い方には注意が必要である。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
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