198. 過敏性腸症候群 (2023年7月号)

 過敏性腸症候群という病気がある。お腹の痛みや不快感、便秘・下痢が急に襲ってきて、我慢ができなくなる病気である。トイレに行っても便秘が先立ち、便が固くなかなか出ないので苦しい。最初は硬便が出て、次いで軟便となり、下痢が続く、長い時は数時間つづくので外出時には困る。脳の内臓を支配する自律神経の乱れからくると考えられている。強い場合は意識を失い倒れることもあるので、てんかんと間違われることもある。例を示そう。

 症例1  30歳台の女性。
幼少のころより腹痛と便秘、下痢を繰返してきた。便が出るまで30-40分かかる。最後は意識が侵され、トイレの床で倒れる。

 症状はまず、お腹が張ってガスが出ることから始まる。ちくっと針で刺されるような、または、しめつけられるような、突き刺さるような腹痛があり、最初に硬い便が出る。次ぎに水様便が出る。それで終わることもある。しかしその後、嘔吐が始まり、ゴミ袋(20L)いっぱいに吐く。短くても30分ぐらいつづく。収まらないときは、息が苦しくなり、意識がもうろうとなり、脱力し、トイレの床に、または廊下に倒れる。長いと数時間続く。母の観察によると、倒れたまま目をぱちぱちさせ名前を呼んでも反応しない。体は柔らかく手足に力は入っていない。最初はてんかんとして治療されて来たが、難治で発作頻度は年に数回である、なお脳波には脳障害を示唆する異常(徐波)がみられた。


 症例2 40歳台の男。
20歳時にカウンターでお酒を飲んでいた時、急に倒れた。腹痛はなかった。その後、30歳のころから腹痛発作が始まった。急に腹痛が始まり、お腹がゴロゴロなり、下痢になった。トイレに駆け込む。頻度は年に2回。最初便が固く、排便にも時間がかかる。ようやく排便が終るとその後下痢が30-40分続く。発作は約1時間続く。貧血気味になり、血が引く感じがしてあぶら汗が出て、気分が悪くなる。小さい波は我慢ができるが大きな波は我慢できない。気を失うことはなく、けいれん発作もない。

 上記の症状から病気の診断名を考えよう。症例1は典型的な腹痛に続いて硬便となり、その後軟弁となり最後は下痢する。これは過敏性腸症候群の特徴症状である。しかしその後意識を失い倒れる。これがてんかん発作かどうか問題となる。母の観察によると「倒れたまま目をぱちぱちさせ名前を呼んでも反応しない」とあるが、これは意識があり、つらい体の変化に苦しくて返事ができないことを示す。脳波に異常があるが、これでてんかんと診断するのは危ない。

 症例2は過敏性腸症候群そのものと考える。過敏性腸症候群は辛いので色々な精神症状出てきてもおかしくはない。そしててんかんと間違われることもある。てんかん発作の診断は、出来るだけ正確に臨床症状を把握できるかがカギとなる。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一 

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