はじめててんかん発作を起こしたときは、本人は何事がおこったのかまったくわからず、周りの人はただびっくりするだけである。救急車を呼ぶかもしれない。「てんかん」かもしれないということで専門の病院での検査をすすめられるだろう。あるいは偶発的な出来事としてしばらく様子を見るのかもしれない。そして2回目の発作を起こしたときはさすがに放置してはおけないということになろう。
てんかん専門医でも最初の発作で直ちに治療を開始するかどうか迷う場合も多い。この発作が本当の「てんかん発作」と断定できないケースが多いからである。また2回目の発作が必ずしも起こるとはいえない場合があるからである。しかし実際に2回目の発作が起きた場合はそれが「てんかん発作」と診断されれば治療を開始すべきであろう。
発作を見ている親や家族は心配して「きちんと薬を飲むように」とやかましく注意するが本人は発作時の記憶がまったく無いので「発作があったこと」をなかなか認めてくれない。そして「なぜ自分は薬を飲まなければならないのか」いまひとつ納得できないようである。倒れて怪我をした場合などは自分でも納得して薬を飲むであろうが、そうでもない限り納得するのに時間がかかるようである。特に眠気などの薬の副作用が出てくるようでは「薬をのみたがらない」のはむしろ当然である。親が無理に薬を飲ませようとするとそこに「親と子のトラブル」が生ずる。子供はやけを起こすかもしれない。
最近経験した例を挙げる。
患者は若い女子である。13歳のある日曜日の朝、家でテレビゲーム中にけいれん発作があった。親は気づいたが、特に治療もしなかった。
1年後のある朝、顔を洗っていて再びけいれん発作を起し倒れた。てんかん専門病院を受診し、「覚醒時大発作てんかん」という診断を受けた。脳波には「特徴的なてんかん波」が出現しており、発作症状は全身を巻き込む「けいれん大発作」であったので、服薬が必要となった。しかし彼女はすんなりと薬を飲んではくれなかった。
服薬しないので親が注意すると不機嫌になり、暴言を吐いて部屋に閉じこもった。学校でも問題行動が見られるようになり、無断で教室を出て行ったり、屋根に上ったりする逸脱行為が出現した。不登校気味になり、2回ほど自分の手首をカッターで切ったこともある。夜遊し、家に帰らないこともあった。
彼女はどうにか中学を卒業し、夜学の高校に進学した。そして日中はアルバイトを始めた。そのころからようやく薬を飲むようになった。それまでに2年の歳月が必要であり、計6回の大発作があった。規則的服薬後、発作はない。昔の明るい彼女に戻った。
この例のように、最初はきちんと薬を飲んでくれなくとも、そのうちに病気を受容し、薬を規則的にのんでくれるようになるので、親はそれまで辛抱強く待つ以外ない。
「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一
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